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32歳井上尚弥に“衰え”を感じるか? “完璧神話”に米リング誌の識者が警鐘「アメリカでは反撃してKO勝ちしたことが評価されている」 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph bySteve Marcus/Getty Images

posted2025/05/07 17:11

32歳井上尚弥に“衰え”を感じるか? “完璧神話”に米リング誌の識者が警鐘「アメリカでは反撃してKO勝ちしたことが評価されている」<Number Web> photograph by Steve Marcus/Getty Images

試合後、カルデナスと健闘を称え合った井上尚弥

TG イノウエは非常にアグレッシブで、常に相手を倒そうとする選手です。そして、ボクシングは打撃を交換し合うスポーツ。より頻繁にパンチを繰り出せば、カウンターを浴びる機会が増え、捕まってしまう機会が出てくるのは仕方ありません。私はXのアカウント上で「イノウエは効いていた」と記すと、気分を害した人がいました。ただ、ダメージを受けるのは誰にでもあること。個人的には、効かされた後に、しかもカルデナスのような両手にパワーを備えた相手に対し、あのような形で反撃し、KO勝利を収めたことの方が素晴らしいと思いました。だから衰えているとは見ていないですし、いまだに世界のパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングのトップ3に含まれるボクサーという認識です。

DS リングマガジンのランキング選考でも、「ダウンさせられたから井上をPFP2位から落とそう」といったような意見は一切出ていないですね。アメリカでは井上の知名度が高まった時期が日本と比べて少し遅く、“完璧神話”が日本よりも自然な形で少し薄いことが影響しているのかなと思います。

TG たまに反撃のパンチをもらうという点では、往年の3階級制覇王者フェリックス・トリニダードも同じでした。トリニダードはウェルター級時代に6度もダウンを喫しましたが、そのたびに立ち上がり、倒し返して大人気ボクサーになりました。イノウエの守備意識はトリニダードよりも上だと思いますが、とにかくアグレッシブに倒しにいくという点では共通点があります。

スーパーバンタム級“最後の難敵”

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DS 井上の次戦は9月、日本国内でWBA暫定王者ムロジョン・“MJ”・アフマダリエフとの対戦が内定状態です。ウズベキスタンのトップアマだったMJは2016年のリオ五輪銅メダルをはじめとする豊富な実績を持ち、プロでも13勝(10KO)1敗。2023年4月、マーロン・タパレスに不覚の1敗を喫した以外はうまさと強さを見せつけている本格派です。中谷潤人のように下の階級から上げてきそうな選手を除けば一般的に“スーパーバンタム級での最後の難敵”とみなされており、井上との激突は前評判も盛り上がりそうです。

TG 非常に魅力的なカードですね。MJは非常に優れた経歴の持ち主ですし、私もいいボクサーだと評価しています。MJがタパレスに敗れなければ2〜3年前に実現していたはずの一戦。カルデナスとは全く異なるスタイルであり、ここでイノウエはまたサウスポーの強敵を迎え撃つことになります。もっとも、ネリやTJ・ドヘニーもサウスポーでしたし、イノウエは左構えの選手との対戦経験が豊富にあります。イノウエにとって難しい夜になると考えているファンは存在するのでしょうが、私はやはり4冠王者が優位と見ています。“打倒・モンスター”に闘志を燃やすMJにある程度の試練は与えられ、判定までもつれこむ可能性もあるのでしょうが、総合的な実力で上位のイノウエが負けることはないというのが私の見方です。

【次ページ】 「相手の前評判が高い時ほど…」井上尚弥の真骨頂

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