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「別人格が降りてきた」名人・藤井聡太に挑んだ永瀬拓矢の“変貌”「一時は評価値でリードも」藤井の桂馬が飛行機のように…羽田空港で見た“2人の物語” 

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いしかわごう

いしかわごうGo Ishikawa

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posted2025/05/07 11:29

「別人格が降りてきた」名人・藤井聡太に挑んだ永瀬拓矢の“変貌”「一時は評価値でリードも」藤井の桂馬が飛行機のように…羽田空港で見た“2人の物語”<Number Web> photograph by Number Web

研究に研究を重ねて藤井聡太名人に挑んでいる永瀬拓矢九段

 世間の記憶に色濃く残っているタイトル戦となると、2023年10月の王座戦第4局かもしれない。藤井が史上初となる八冠独占を成し遂げた対局で、その相手が永瀬だった。終盤までは永瀬の勝勢に見えたが、1分将棋で指した一手が悪手となってしまった。それに気づいた次の瞬間、天を仰ぎ、自らの頭をかきむしった永瀬の姿を、将棋ファンではない多くの国民も目撃している。一方、勝利した藤井は将棋の歴史に新たな金字塔を打ち立てた。

 現在は無冠となっている永瀬だが、今期のA級順位戦ではプレーオフを勝ち抜き、棋界最高峰の舞台である名人戦で藤井に挑んでいる。

「39対61」評価値が“永瀬有利”に傾いた瞬間も

 お互いに正解を指し続けていくことで、難しい局面でも均衡が崩れぬまま続いていくことを、羽生九段が「テニスのラリー」に喩えていたことがある。

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 名人戦第2局は、高度なテニスのラリーが終盤まで続く展開だった。タイトル戦では昼と夜、2度の食事休憩を挟むが、2日目の夕食休憩後も、形勢は全く互角だ。ABEMAの中継に表示されるAIの評価値は両者50%から微動だにしていない。

 ただし時間は別だ。刻一刻と進んでいく。

 2日目の午後の戦いに入る際、永瀬は76手目で1時間に迫ろうかという長考の末に「攻め」を選択していた。そこから進んだ80手目で再び1時間近い長考。この3手で2時間半近く時間を消費している。形勢は均衡を保ったままだったが、永瀬が序盤に得た考慮時間のアドバンテージがなくなり、夕食休憩に差し掛かる頃には両者の持ち時間はほぼ並んでいた。

 窓から見える滑走路の陽も落ち始めている。

 そんな中、藤井名人が46分の長考の後、89手目に▲7四歩と決断。ここで初めてと言っていいほど評価値が揺れた。

 39%と61%。

 後手の永瀬が指しやすい局面に傾いたことを意味する数値だった。実際、藤井はこの局面で自信が持てなかったと漏らしている。

「7四歩と突くか、3五歩と突くかで迷いました。どちらもあまり自信が持てない。本譜も進んで……そうですね。自玉がかなり攻められる形になった。依然として苦しい形なのかなと思っていました」

 100手目。ようやく終盤の入り口に突入し、勝負所がやってくる。101手目、藤井が6六の地点に打ち込んだ桂馬に対して、永瀬が銀を6五に進めて桂馬にぶつけたのだ。

 この踏み込みを境に、今度は藤井に評価値が傾いた。

【次ページ】 「まるで飛行機のように…」藤井聡太の桂馬が跳ねた

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