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将棋PRESSBACK NUMBER
「別人格が降りてきた」名人・藤井聡太に挑んだ永瀬拓矢の“変貌”「一時は評価値でリードも」藤井の桂馬が飛行機のように…羽田空港で見た“2人の物語”
text by

いしかわごうGo Ishikawa
photograph byNumber Web
posted2025/05/07 11:29
研究に研究を重ねて藤井聡太名人に挑んでいる永瀬拓矢九段
周囲を驚かせるほどの積極策だったが、当の永瀬は「(駒が)ぶつかるまでは長いですが、千日手にはならないと思っていました。こちらが待機して、どこかで打開するのかなと思っていました」と、淡々と述べている。
千日手にならないことも、その後の打開策も想定内だったようである。
そこには藤井聡太という指し手に対する盤上の信頼もあることがうかがえた。この両者の背後に流れている時間を感じさせる言葉だった。
8年前から続く藤井聡太と永瀬拓矢の“特別な関係性”
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藤井聡太と永瀬拓矢。
タイトル戦で顔を合わせるのはこれで5度目。「令和のゴールデンカード」と言われ始めている両者の対局だが、出会いは今から8年前にさかのぼる。ABEMAで2017年に放映された『炎の七番勝負』という企画が始まりだ。
中学生棋士として注目された藤井四段(当時)に対して、若手有望棋士からタイトル経験者まで7人が非公式戦で対局するという企画である。
将棋界の顔であり、当時三冠だった羽生善治も最終局に登場。開局したばかりだったABEMAにとっては、「天才中学生棋士はいったいどれほどの腕前なのか」という世間の関心に真っ向から応える目玉企画だった。
とはいえ、企画が決まった当時の藤井はプロデビュー前。
まだ何者でもなく、実力も未知数だ。この七番勝負は苦戦することも想定されていた。ところが蓋を開けてみると6勝1敗と、恐るべき強さを見せたのである。特に最終局で羽生が投了する光景はニュース映像で繰り返し流れ、「あの羽生さんに勝った」と大きな話題を集めた。
この企画で藤井に唯一の黒星をつけたのが、第2局で対戦した永瀬六段(当時)だった。
当初、この第2局は佐々木勇気五段(当時)がキャスティングされていたのだという。しかしスケジュールの都合で佐々木が参加できず、代役として永瀬に出場が打診された。この対局がきっかけで、永瀬と藤井は研究パートナーとして練習将棋を指すようになったと言われている。
いまや第一人者となった藤井が歩んできた道のりは説明するまでもないが、一方の永瀬も2018年度には叡王、2019年度には王座のタイトルを獲得。一気にトップ棋士へと駆け上がっていった。両者がお互いを高め合ってきたことは、棋界の勢力図が物語っている。いつしかこのライバル対局は、「令和のゴールデンカード」と言われるようになった。

