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「もしかしたら兄貴の本当の狙いは…」アントニオ猪木の実弟が振り返る「日本プロレス史上最大の謎」“舌出し失神事件” 42年目の真実 

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欠端大林

欠端大林Hiroki Kakehata

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photograph byHiroki Kakehata

posted2025/03/19 11:07

「もしかしたら兄貴の本当の狙いは…」アントニオ猪木の実弟が振り返る「日本プロレス史上最大の謎」“舌出し失神事件” 42年目の真実<Number Web> photograph by Hiroki Kakehata

晩年のアントニオ猪木と実弟・啓介さん。啓介さんが振り返った42年前の「事件」の真実とは何だったのか

 ブラジル育ちの啓介氏は、アントン・ハイセルの事業に深く関与していた。団体旗揚げ以来、営業マンとして新日本プロレスに在籍していた啓介氏は、IWGPのシリーズを最後に、会社の経営を立て直すためブラジルに戻ることになっていたという。そのシリーズ最終日に「事件」は起きた。

「最終的に、ハイセルの借金は佐川急便創業者の佐川清会長(故人)の力を借りて清算しているのですが、当時はまだ佐川会長と兄貴の関係はそれほど密接ではなく、借金返済の目途はついていませんでした」

 糖尿病で体調は悪化、ハイセルの経営は火の車、そして主力選手は離脱の動き、社内ではクーデター計画まで起きる四面楚歌の状況で、猪木はなぜ「失神」を演じたのか。

猪木の失神は…「話題づくり」を狙った?

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 巷間、囁かれてきた有力な説は「事件を起こし、話題づくりを狙った」というものだ。

 当時、猪木の番記者だった東スポの永島勝司氏(故人、後に新日本プロレスに入社)が猪木に対しある「アドバイス」を行ったとされる。筆者も生前の永島氏から、その進言内容を聞いた。

「イノキよ。チョーマイヨミ(朝日、毎日、読売)にプロレス記事を載せたいなら、救急車で運ばれるくらいの事件を起こさなきゃいけねえ」

 それを聞いた猪木が、永島案を忠実に実行し、実際、全国紙の社会面に「事件」として記事は掲載された――もっとも、これは単なる話題づくりというよりも「八百長」と揶揄されてきた世間のプロレスに対する偏見に対するカウンターであったと解釈されている。

 誰もが「猪木が勝ってIWGP王者になる」と信じ切っているところ、まさかの結末に終われば、世間のプロレスに対する目も変わる。それは確かに予定調和を嫌った猪木の思考と合致しているようにも見える。

 だが、啓介氏は語る。

「確かにそうかもしれませんが、私は少し違う印象を抱いています。兄貴は、試合の前日に長州らが会見してフリー宣言を行った、その話題を潰したかったのではないかと思います。実際、失神事件のインパクトが大きすぎて、長州らの宣言は完全にかき消されましたからね」

 猪木はエースの座を自ら禅譲するようなプロレスラーではなかった。力の衰えが目立った80年代の後半も、下の世代の長州や藤波(辰巳)らが団体のトップに君臨することを許さず、逆にトップ外国人選手との死闘や、マサ斎藤との巌流島対決(1987年)などで存在感を示し、彼らの台頭を潰しにかかっている。

【次ページ】 アントニオ猪木の「完全犯罪」の行方は?

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