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「試合に勝って、勝負に負けた」“完璧ではない神童”那須川天心19歳の涙…“宿命のライバル”武尊とロッタンがいま対戦する意味「闘いはまだ続いている」
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長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2025/03/05 17:02
2018年6月17日、当時19歳の那須川天心はロッタン・ジットムアンノンに延長戦で辛くも勝利。試合後にはリングで涙を流した
忘れがたい世紀の一戦「東京ドームは異様な雰囲気に」
キックボクサーとしての那須川天心を語るうえで、もうひとつ忘れられない試合がある。言わずもがな、キックでのラストマッチとなった武尊との“世紀の一戦”だ。相思相愛と言われながらも団体間の事情により、両者は長い間、対戦することが叶わなかった。
様々な障害をクリアして拳を交えることになったのは、2022年6月19日のことだった。東京ドームで開催された『THE MATCH 2022』は社会的にも大きな注目を浴び、チケットは即座にソールドアウト。PPVの売り上げは約25億円、入場収入などを合わせると一晩で50億円以上もの興行収入を上げたメガイベントとなった。
天心はこの試合を実現させるためにボクシングデビューを遅らせ、一方の武尊は「負けたら引退」と公言していた。
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試合当日は5万6399人の観客が押し寄せ、東京ドームはかつてないほどの熱気と興奮に支配されていた。21時に両者がリングで対峙した瞬間、歓声と悲鳴が入り混じる異様な雰囲気のなか、会場の熱量はピークに達した。
“天心びいき”のカメラマンも惚れた武尊の闘志
試合は1ラウンドから動いた。前に出てプレッシャーを強める武尊に対して、天心はカウンターのパンチや蹴りで応戦する。ラウンド終了間際、武尊の右ストレートに合わせて天心はカウンターの左フックでダウンを奪った。
2ラウンドも天心が攻めの手を緩めず、やや優勢に試合を進める。この試合はオープンスコアが採用され、かつ公平を期すために5名のジャッジによる異例の採点方式が用いられた。2ラウンドが終わった段階で、4名のジャッジは20-18で天心を支持していた。つまり、最終ラウンドでダウンを奪い返すかKOしなければ、武尊の敗北が決まるのだ。
3ラウンドは武尊が逆転を狙って大振りのパンチを繰り返す。リングサイドで感じたその風圧には、クリーンヒットさえすればKOできるだけの説得力があった。そして何よりも、一発一発の打撃に「絶対に倒す」という強い意志と魂が込められていた。
武尊はパンチを顔面に受けても全くひるむことなく、笑顔を見せながら「もっと来い」とアピールする。どんなに打たれようと、空振りをしようと、前進を止めない。残り時間が30秒を切ったところで両者がもつれ合い、レフェリーがブレイクしたことで距離ができた。再開後、すぐに武尊は打ち合うために全力で走って天心と対峙した。この愚直とも言える姿に“天心びいき”の私は胸を打たれ、試合後は彼のファンになってしまった。



