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《つば九郎担当スタッフ逝去》さらば“戦友”…最も知る仕掛け人の秘話「つば九郎なら巨人に勝てる」「フリップ芸はドアラのイベントの暴走から」
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佐藤春佳Haruka Sato
photograph byKenjiro Kato
posted2025/02/23 11:03
つば九郎の「仕掛け人」としてファンにも知られていた加藤謙次郎氏。数々の秘話を明かしてくれた
「最初はすごくゆるかったんです。小学校に行ってドッジボールをやるとか、河川敷で少年野球のチームを応援するとか。でも、やっているうちに来てくれる人が増えて行って、30分あげますからご自由にどうぞ、というようなイベントが多くなりました。
その年の最後に日本サッカー協会の方にお力添えいただいて、当時文京区にあったサッカーミュージアムを訪問したんですが、トークショーに500人くらい集まったんです。たった1年でどんどん人がついてくるようになった、という実感がありました」
FA宣言、大相撲訪問…
つば九郎の契約更改は毎年恒例のイベントになった。2012年には「こくみんてきつばくろうになる」という捨てゼリフ?と共にマスコット史上初の「FA宣言」。当時の衣笠剛球団社長や小川淳司監督までも説得に乗り出すなど、球団幹部も総動員しての“慰留”が実って残留を決断したが、その間にはなんと22件もの「オファー」が届いた。
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「最初の3社くらいはなんとなく僕の方で当たりをつけていたんですが、あとは企業や団体の方からどんどん連絡が来ました。日本相撲協会からのオファーでは、若い力士と一緒にシコを踏んだりしていたところにNHKのラジオが取材にきて『FA宣言したつば九郎が日本相撲協会を訪れ』なんて大真面目に伝えていて……あれは面白かったですね」
人を傷つけない毒舌
スケッチブックを駆使しての筆談は、抜群のセンスが光った。毒舌で、時には時事ネタやスキャンダルにも突っ込みを入れるなど自由奔放。しかし、あくまで一線は超えず人を傷つける言葉を使わないのは、つば九郎の、そしてAさんの人柄あってのことだ。
「僕はいつも『つば九郎には好き放題やってもらって、何かあれば僕が謝れば』って言っていましたが、実際に怒られたことなんてほとんどない。ギリギリのところで笑いをとるというのはもう、センスというか芸ですよね。人を見たり、空気を読む力がめちゃくちゃある。そして誰に対しても同じように接する。王(貞治)さんや落合(博満)さんにも臆せず写真をお願いしたりして、それがまた愛されました」


