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賞金1000万円、ジャイアント白田との死闘…“大食い界のプリンス”と呼ばれた小林尊が振り返るフードバトル黄金期「めっちゃ批判もされましたよ」 

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荘司結有

荘司結有Yu Shoji

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2025/02/17 11:01

賞金1000万円、ジャイアント白田との死闘…“大食い界のプリンス”と呼ばれた小林尊が振り返るフードバトル黄金期「めっちゃ批判もされましたよ」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

「大食い界のプリンス」と呼ばれた伝説のフードファイター・小林尊のインタビュー(第2回)

 白田も過去の取材で、この小林の特質を明かしている。

「僕は調整期間が長いことで有名なんです。努力して食べ続けないと胃の容量を保てなかった。でも、尊は1カ月もあれば水だけで十何キロという容量を作れるんですよ。彼いわく、胃にもマッスルメモリーがあって、一度伸ばしてしまえば、水だけでバーンと膨らませることができるらしい」

 とはいえ、その量とスピードが尋常ではない。大会前には数日に一回の頻度で、3ガロン(約11リットル)の水を90秒で飲み干すというトレーニングを重ねていたという。ウォーターサーバーのボトルは大体12リットル。あの量を一気飲みすると考えたら、もはや恐ろしさを覚える。

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 こうした途方もないトレーニングで胃の容量を十分に広げた後は、本番にむけて食材をいかに速く、多く食べるかのテクニックを磨く。ただ、多くの番組では当日まで食材が明かされないため、ラーメンやステーキなど「出そうなところ」を押さえて練習していたという。

日本のフードバトルが世界で“異質”な理由

 海外を舞台に戦ってきた小林が振り返るには、日本のフードバトルのシステムは独特だった。というのも、大食いが盛んな米国では、ホットドッグやタコス、ハンバーガーなど同じ食材をひたすら食べ続ける大会が主だ。そのため、一つの食材に対して徹底的にアプローチできる。

 一方、日本の番組は勝ち抜き方式で、ラウンドごとに違う食材、制限時間が設けられている。王道食材ならまだよいが、コーヒー牛乳やゆでだこなど予想できないものが出てくることもある。傍から見れば、どれも勢いで胃に押し込んでいるように思えるが、それぞれの食材ごとに攻略法はまったく異なる。ラーメンが得意な選手もいれば、ホットドッグが得意な選手もいる。いわば、別々の種目を組み合わせた「混成競技」なのだ。

「アメリカだと食材ごとにプロフェッショナルがいて、一つの食材を極めないと勝ち抜くのが難しい。でも、ホットドッグのチャンピオンが他の食材でも勝てるかといったら、そんなことはないんですよ。僕がアメリカの大会で9割以上勝てたのは、どの食材にも対応できたからだと思います」

 日本で独自に発展した“総合格闘技”としての大食い。そこで能力を極めたことが、のちに小林が「全米で最も有名な日本人」と称されるほど活躍できた所以でもあった。

「僕はやっぱり、日本の総合力で戦う大食いが好きなんですよね。いろんな食材とか、制限時間を組み合わせながら誰が一番強いのかを決める。どの食材でも一番を獲れるやつが、世界で一番食べるやつだと思っているので」

 世界で一番食べるやつ。黄金期の白田との勝負は、まさに人類最強を証明する絵でもあった。しかし2002年、フードファイターの真似をした男子中学生が給食をのどに詰まらせて亡くなる事故が発生。大食いブームは突如として終焉を迎え、小林は独り、戦いの場をアメリカに移したのだ。

<大食い界に新たな風を吹かせた小林は、その神がかった実力とスター性ゆえにトラブルに巻き込まれることもあった。彼は何と戦ってきたのか。インタビュー最終回では、日米で巻き込まれた“契約問題”の真相、引退マッチの裏側を明かす>

(撮影=杉山拓也)

#3に続く
「他局には出られない」人気絶頂の小林尊を“テレビから消した”独占契約問題…伝説のフードファイターはなぜ“賞金1000万円の引退試合”を行ったのか?
この連載の一覧を見る(#1〜3)

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