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「大食いは“食事の延長”ではない」TV大食いを“スポーツに変えた”フードファイター・小林尊の本音…細身の素人大学生が見せた「伝説のデビュー戦」
posted2025/02/17 11:00

「大食い界のプリンス」と呼ばれた伝説のフードファイター・小林尊のインタビュー(第1回)
text by

荘司結有Yu Shoji
photograph by
Takuya Sugiyama
フードバトル界に彗星の如く現れ、一世を風靡した小林尊(46歳)。世界の猛者たちが集う米国のネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権で6連覇を遂げるなど、“史上最強のフードファイター”として一時代を築いた。その始まりの物語を聞こうと、引退バトルを終えた小林のもとを訪ねた。
◆◆◆
12月某日、京都市郊外のホテルに小林が姿を見せた。くっきりとした顔立ちに、坊主頭。身長173センチとやや小柄な体躯、服の上からでも分かる引き締まった上半身。その容貌は、身体を隅々まで研ぎ澄ませたボクサー、あるいはボディビルダーを彷彿とさせる。
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「地上最強の胃袋」――。小林は、フードファイターとしてはこの上ない異名を持つ男だ。
2001年、米国の歴史ある「ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権」で当時の世界記録を倍にする50本を完食して、以降6連覇を達成。ソーセージを10分で110本、牛の脳みそを15分で8kg、手羽先を30分で337本……等々、数多くのフードバトルで驚異的な記録を打ち立てた。その生涯獲得賞金は1億円以上で、フードバトル界のカリスマであり、レジェンドである。
きっかけは“ココイチの5100グラム”
そんな小林が“大食い”に目覚めたのは、三重県の四日市大学在学中。運動部出身の友人たちとの他愛もないやり取りがきっかけだった。
「僕を含めて4人だったかな。友人同士で『俺が一番食えるぜ』ってマウントを取り合っていたんですよね(笑)。僕は元野球部なので人より食べられる自信はあって。でも限界まで食べたことはないし『だったら誰が一番食べられるのか勝負しようぜ』という話になったんです」
彼らが向かったのは、あの黄色い看板が目印のカレーチェーンである。CoCo壱番屋、通称ココイチには当時チャレンジメニューがあったのだ。
それはライス1300g+ルー700gの計2000gを20分以内に完食したら無料になるというもの。だが、小林が注文したのはライス5100gのカレー。あえてこの量に挑戦したのは、当時放送されていた「TVチャンピオン『大食い選手権』」の優勝者、中嶋広文氏の記録が5000gだったからだ。
「大食い選手権の存在は知らなかったんですよ。地元の長野はテレビ東京が映らないから。でも、中嶋さんは『笑っていいとも!』とか、他の番組の企画にもよく出てたんですよね。どこの番組か覚えてないけれど、象と対決してたのがすごく印象的で。だからチャンピオンの記録だ!って思ったんです」
ずらりと並んだカレーを無理やり胃袋の中に流し込んだのは、チャレンジ終了の20秒前。友人同士のマウントに勝ったのは言うまでもない。小林の記録は全国一となった。