スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER

「区間新を狙えると思っていましたが…」東大“史上最速ランナー”が奇跡の箱根駅伝を走るまで 予選会まさかの「11番手」に落胆も…下剋上ウラ話 

text by

生島淳

生島淳Jun Ikushima

PROFILE

photograph byYuki Suenaga

posted2025/02/04 11:02

「区間新を狙えると思っていましたが…」東大“史上最速ランナー”が奇跡の箱根駅伝を走るまで 予選会まさかの「11番手」に落胆も…下剋上ウラ話<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

10月の予選会では23度という季節外れの暑さに苦しんだ東大の秋吉拓真(3年)。幸運にも選考方針が変わったことで予選会後も可能性が残った

 このままでは望むような結果が得られないと判断した秋吉は、1万m記録挑戦会の1週間前、11月9日に行われる日体大記録会の5000mに出場し、「足慣らし」をすることに決めた。

「日体大で13分50秒09の自己ベストをなんとか出せました。これで自信を取り戻せたのが大きかったと思います」

 そしていよいよ選考がかかった1万m記録挑戦会。秋吉はここで28分52秒31をたたき出し、全体でトップとなった。

ADVERTISEMENT

 予選会が9ポイント、記録挑戦会が1ポイント。合計10ポイントとなり、秋吉は「当選圏内」に入ってきた。

「この結果は安心材料にはなりましたが、最後の16kmのタイムトライアルは、基準タイムが設けられていて、その基準の48分30秒を切った選手全員に『1ポイント』という仕組みになっていました。

 基準タイムをクリアすれば本選で走れるわけですが、もしも、15人がクリアして自分だけが切れなかったら、16ポイントがどーんと来て、走れなくなる可能性もあるわけです。不安もあったので、箱根で走った経験を持つ近藤(秀一)コーチと古川さんと一緒に、1週間前に千葉の富津にコースの下見に行ったんです」

 なんという執念だろうか。この好機を絶対に逃してはならないという意気込みがハンパない。

「下見では、1km3分ペースで走ってみることになったんですが、10kmで30分30秒もかかってしまい、『これはまずい』と焦りました。ただ、これがいい勉強になって本番では序盤にそれなりに突っ込んで貯金を作り、後半粘っていくという戦略を立てることが出来たんです」

勝負のタイムトライアル…その結果は?

 1泊2日の合宿、2日目にタイムトライアルが行われた。集団走ではなく、一定の間隔を置いて選手たちがスタートする単独走である。秋吉は最初の5kmを14分28秒で入った。

「14分半を切るペースでしたが、余裕がありました。これで精神的に楽になり『あ、これは大丈夫だ』と確信しました」

 記録は47分37秒。基準タイムをクリアしたので1ポイントだけの加算となり、合計で13ポイント。めでたく秋吉は10人のメンバーに入った。

「本当にホッとしました。そのあと、監督から呼ばれまして、僕が8区で、古川さんが9区を担当することが決まりました」

 ここに、東大の学部生と大学院生のたすきリレーが実現することになったのである。

<次回へつづく>

#2に続く
「これが人生のピークになるかも…」東大“史上最速ランナー”秋吉拓真が箱根駅伝で感じた胸の内…「究極の文武両道」選手の“気になる進路”は?

関連記事

BACK 1 2 3
#秋吉拓真
#東京大学
#古川大晃

陸上の前後の記事

ページトップ