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「区間新を狙えると思っていましたが…」東大“史上最速ランナー”が奇跡の箱根駅伝を走るまで 予選会まさかの「11番手」に落胆も…下剋上ウラ話
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生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2025/02/04 11:02
10月の予選会では23度という季節外れの暑さに苦しんだ東大の秋吉拓真(3年)。幸運にも選考方針が変わったことで予選会後も可能性が残った
予選会は消耗戦となった。各校のエース級の選手は集団走には参加せずにフリーで走ることが多いが、自由に走った選手ほど脱水症状で苦しみ、中には途中棄権せざるを得ない選手もいた。秋吉の体内からも危険信号が発せられていた。
「後半の昭和記念公園に入ってからは、『これは危ない』と感じるほどの暑さでした。おそらく、暑さを考慮して給水ポイントが増えていたと思うんですが、それがなかったら、脱水症状に陥っていた可能性は高かったと思います」
なんとかフィニッシュまでたどり着くと、タイムは1時間05分30秒、全体で77位だった。古川は1時間05分17秒で先着していた。レース後、関東学生連合チームに参加するメンバーが発表されたが、秋吉はそのなかで「11番目」だった。予選会での上位10人が本選を走った前回チームの例にならうなら、落選である。
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「自分自身、通過して当たり前だと思っていました。それが11位で……。本当に情けなかったです」
ただ、学生連合チームの編成方針は、担当する指導者によって変わる。
予選会のタイム1番目から10番目までで本選を走る選手が即時決定の場合もあれば、年によっては11月のトラックでの記録を参考にすることもある。
「ここしばらくは予選会の順位が優先されていたので、気持ちを切り替えてトラックに集中しようと思っていたところに、選考方針がPDFで送られてきました」
まさかの予選会「11番手」も…起死回生の選考方針
今回、学生連合の監督を務めたのは、東京農業大学の小指徹監督だったが、例年とは違い予選会を含む3本のレースをもとに選考する方針を打ち出した。その3本とは、
・箱根駅伝予選会
・11月16日開催の関東学連主催の1万m記録挑戦会
・12月上旬に行う合宿での16km走
だった。
「予選会と記録挑戦会は、学生連合チーム内の順位をそのままポイントとして計算する、とありました。山区間の2人は別選考だったので、その2人を除くと予選会で僕は9番目でしたから、9ポイント。記録挑戦会も同様に順位付けされて、最終的にはポイントの少ない順番に8人が本選の平地区間を走ることになりました」
秋吉に訪れたセカンドチャンスだった。
ただし、秋吉は予選会で完全に自信を喪失していた。しかも10月末にロード用のシューズからスパイクに履き替えたところ、脚部に筋肉痛が出た。

