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交際0日で結婚→柔道ブラジル代表コーチ中に妊娠「夫と子供たちが協力してくれたおかげ」“問題児”を五輪金メダリストに育てた42歳女性のドラマ
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沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph bySEBASTIAN SMITH,AFP/JIJI PRESS
posted2025/01/30 06:00
2018年、ブラジル柔道コーチ時代の藤井裕子さん。その人生は波乱万丈だった
「彼は日本柔道の哲学と精神性に魅せられ『畳の上でも外でも黒帯の人材を育成する』という理念を抱き、無私無欲で指導を続けている。その姿に、強い感銘を受けました」
――このレアソンからラケル、ラファエラのシウバ姉妹ら多くのブラジル代表が育ちました。
「実は、私はブラジル代表のコーチになった頃からボランティアでレアソンで指導を行い、この姉妹のことを良く知っていました。そして、代表でもラファエラを指導したのです」
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――ラファエラはなかなかの問題児で、ブラジル人指導者ですら扱いに苦慮していたと聞きました。
「リオで最も危険な貧民街で生まれ育ち、身体能力と闘争心はずば抜けている。でも、単調な反復練習が大嫌い。ロンドン五輪で反則負けを喫して人種差別的な批判を受けて落ち込んでいた時期もあり、周囲の人は腫れ物に触るような扱いをしていました。でも、私は特別扱いをせず、彼女の良さを引き出すことを考えて指導していました」
「ユーコの顔も見たくない」と言われた時期も
――しかし、リオ五輪前、裕子さんに対しても反発し、個人練習を拒否した時期があったそうですね。
「当時、ブラジル柔道連盟内部でも、基本を重視する私の日本的な指導が彼女の攻撃性を損ねている、という批判があった。また、ご当地選手で五輪優勝を期待されて重圧を感じ、神経質になっていた。『ユーコの顔も見たくない』とまで言われました。しかし、辛抱強く待っていたら、ある日突然、練習に戻ってきて、『ドルジスレン・スミヤ(モンゴル)の攻略法を教えて』。以来、個人練習を重ねて五輪での対戦が予想される有力選手を徹底的に研究しました」
◇ ◇ ◇
ラファエラが頂点に立ち、男子柔道の監督も任されることになった。そんな裕子さんの記憶とともに、妻をサポートした夫・陽樹さんの言葉にも耳を傾けることにした。
〈つづく〉

