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交際0日で結婚→柔道ブラジル代表コーチ中に妊娠「夫と子供たちが協力してくれたおかげ」“問題児”を五輪金メダリストに育てた42歳女性のドラマ 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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photograph bySEBASTIAN SMITH,AFP/JIJI PRESS

posted2025/01/30 06:00

交際0日で結婚→柔道ブラジル代表コーチ中に妊娠「夫と子供たちが協力してくれたおかげ」“問題児”を五輪金メダリストに育てた42歳女性のドラマ<Number Web> photograph by SEBASTIAN SMITH,AFP/JIJI PRESS

2018年、ブラジル柔道コーチ時代の藤井裕子さん。その人生は波乱万丈だった

 2021年の東京五輪では男子66kg級のダニエル・カルグニンが銅メダルを獲得。選手として出場が叶わなかった五輪の大舞台で、3大会連続で指導者として参加し、教え子たちのメダル獲得を手助けした。

 東京五輪後は、ブラジル男子代表のコーディネーターとして強化に携わった。そして、2023年、リオの貧民街に設立されたNGOでありながら国内トップ選手を育成する「インスチトゥート・レアソン」(レアソン基金。以下、レアソン)のコーチに就任。若手からトップ選手まで指導した。

 私生活では、4歳年下で教員だった陽樹さんとブラジルへ渡る直前に“交際0日”で結婚した。以前の取材で「交際0日でもプロポーズするほどの無謀な勇気に乗ってみるかな」とも話していたが――ブラジル代表コーチ在任中の2014年に長男・清竹君、2017年に長女・麻椰ちゃん、2022年に次女・巴菜ちゃんが生まれ、夫・陽樹さんのサポートを得て子供たちを育ててきた。

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 干支が一回りするほど長い年月を過ごしたブラジルでの日々で、一家はどう歩んできたのか。まずは裕子さんに話を聞いた。

最も印象的なのは教え子の五輪金メダルより

――外国での長年の柔道指導者生活、お疲れさまでした。今の率直な気持ちは?

「夫と子供たちが協力してくれたお陰で、与えられた職務を家族全員で全うできた。大きな達成感を覚えています」

――この間、最も印象的だったことはやはり、ラファエラ・シウバの金メダルでしょうか?

「いや、実はそうではないんです。最大の衝撃は、レアソンという素晴らしいNGO組織の存在、その哲学を知ったことです。

 世界柔道の最前線では、五輪など国際大会の成績が重視され、商業主義も進んでいます。しかし、レアソンは犯罪組織に取り込まれかねない貧民街の子供たちに柔道を通じて人間教育を施すことを目指すソーシャル・プロジェクトです。約束事を守る、他人を尊重するといった社会生活を送る上での基本的なルールを教え、学業も重視します。本来なら進学が難しい貧困家庭の子供であっても柔道で頑張って奨学金を得て中学、高校、さらには大学へ進学する道を開いています。そして、トップ選手になれば柔道で身を立てられます」

貧民街育ちの問題児とどう信頼関係を築いたか

――レアソンを主宰するフラビオ・カントは、著名な学者を父親に持つ上流階級の出身。寝技の達人で、2004年アテネ五輪の男子81kg級で銅メダルを獲得しました。そして、2000年にこの組織を設立し、以来、身を粉にして奮闘している。私もインタビューさせてもらいましたが、本当に素晴らしい人ですね。

【次ページ】 「ユーコの顔も見たくない」と言われた時期も

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