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<待望のボクシング界ホープ> 井岡一翔 「世界王者がスタートライン」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byTakuya Ishikawa
posted2011/02/08 06:00
国内の実力者を次々と倒し、難なく日本タイトルを獲得。
飛び級でもなければ、抜け道をすり抜けたわけでもない。やるべきことをやり、正々堂々とキャリアを重ねた。自信の裏付けはレコードブックにしっかりと記録されている。
デビュー戦でタイの国内ランカーを下し、2戦目でタフネスが売りの日本ランカー、松本博志を2回TKOで沈めた。3戦目は曲者の世界ランカー、國重隆に文句なしの判定勝ち。この勝利で世界ランクを手に入れると、海外のランカークラスと2戦を挟み、昨年10月の日本王座決定戦では実力者の瀬川正義を圧倒。難なく日本タイトルを手に入れてみせた。
「世間が感じるよりは自然な挑戦だと思います。プロモーターの立場からすれば、日本タイトルを防衛した方が儲かりますよ。次は世界戦、世界戦って宣伝しながら引っ張った方がね(笑)。だけどあいつに言わせたらそれは違うと。だらだらやってるだけやと。勝つ試合ばかりになってしまうやないかと」
一法はプロモーターとして世界タイトルマッチ実現に向けて動いた。ボクシングの世界戦は交渉を抜きには成立しない。試合会場をどこにするのか。ファイトマネーはいくら払うのか。チャンピオンが首を縦に振らなければ試合は実現しないのだ。
「実績も申し分ないチャンピオンですから倒しがいがあります」
事実、交渉は難航した。その結果、本来のライトフライ級ではなく、1階級下のミニマム級への転級を余儀なくされた。
「減量は厳しいかもしれないけど、大きな問題ではありません。ウエートがどうとか、相手がどうとか、世界戦をやれるなら文句は言ってられませんから」(一翔)
階級を落とし、減量というハードルが加わり、想定していた王者も変わった。オーレドンは36戦していまだ無敗のタイ人ボクサーだ。一発の威力こそないものの、相手の長所を殺す技巧派で、6度の防衛のうち2人の日本人選手を退けている。
キャリアからいえば格は明らかにオーレドンが上であろう。
「強いというよりはうまい選手。でも、駆け引きやペースの奪い合いは僕の得意とするところです。いままでの挑戦者はガンガン前に出てさばかれた。僕は幅広いボクシングで対応したい。実績も申し分ないチャンピオンですから倒しがいがあります」
相手が無敗のチャンピオンでも臆するところはない。キャリアが浅いと言われるのは心外だ。自分は21年間の人生でそれだけの道を歩んできたのだから……。