猛牛のささやきBACK NUMBER

「正直『飛んでくんな』と…そこまでなったのは初めてでした」オリックス・安達了一はなぜ引退を決めたのか「あのエラー」と「取り戻した誇り」 

text by

米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

PROFILE

photograph byJIJI PRESS

posted2024/12/31 11:06

「正直『飛んでくんな』と…そこまでなったのは初めてでした」オリックス・安達了一はなぜ引退を決めたのか「あのエラー」と「取り戻した誇り」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

守備の名手として長年バファローズを支えた安達

1イニング3失策の悪夢

 その日ベンチスタートだった安達は、3-1とリードして迎えた9回表に守備固めでセカンドの守りについた。マウンドには、NPB通算250セーブのかかる守護神・平野佳寿が上がった。

 ところが信じがたい光景が続いた。名手・安達がセカンドの打球を立て続けにエラーし、1イニングに3失策。それが失点に絡み、5失点して逆転負けを喫した。

「思い出したくないですけど」と苦笑しながら、当時の心境を語ってくれた。

ADVERTISEMENT

「最初は普通の感覚でいたんですけど、(エラーを)やるにつれてどんどん……。しかも次々にボールが来た。なかなかああいう経験はないんですけど、あの回だけで(打球が)4つも。恥ずかしかったのと、申し訳なさで……。

 平野さんには(ベンチで)ひたすら謝りましたけど、『いや全然大丈夫』と言ってくれました。平野さんは優しくて」

指揮官の無言の激励

 翌日の試合前練習では、中嶋前監督にキャッチボールに誘われた。

「自分がちょうどキャッチボールに行く時に中嶋さんがいて、一緒にやる流れになりました。特にエラーに関しての言葉はなかったですけど、気遣いがありがたかったですね。やっぱり絶対気にしていますから、当事者は。

 だって、監督によっては(二軍に)落ちるかもしれないし、もう一生使われなくなるかもしれないので。中嶋さんじゃなかったら、どうなっていたかわからないですね。正直、今ここにいるかもわからない(苦笑)」

 中嶋監督は誰に対しても、失敗したから即二軍に落とす、ということはほとんどなかった。キャッチボールは、変わらぬ信頼と、「取り返せよ」という激励の意思表示だと受け取った。

「守れなくなったら引退と…」

 見捨てられたわけではない。だがどんなにもがいても、自分の中で悪夢を払拭できなかった。

「自分の感覚、今までの守備というのが戻らなくて、ずっとモヤモヤしていました。(3失策が)頭をよぎってしまって、怖さが出てしまった。そこが一番じゃないですか。今までは自信を持って守っていたんですけど、そういう自信もなくなった。そこまでになったのは初めてでした。

 エラーしたことは何回もありましたけど、今回はもう、あれだけのことをした。記録にも残るような。正直『飛んでくんな』とは思いますよ(苦笑)。そういう気持ちになっちゃったんで、もう……。これ以上変なの見せられないっていう気持ちは強かったですね」

 もともと「守れなくなったら引退と決めていた」という安達は、決断した。

【次ページ】 職人ゆえの試行錯誤

BACK 1 2 3 NEXT
#オリックス・バファローズ
#中嶋聡
#安達了一
#T-岡田
#岸田護
#紅林弘太郎
#宗佑磨

プロ野球の前後の記事

ページトップ