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「ガッツポーズやりすぎだよ、演歌歌手みたい」中田璃士16歳が全日本フィギュアでみせた圧巻の演技「ノーミスしたら絶対に“大の字”をやりたいと…」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2024/12/30 17:04
フィギュアスケート全日本選手権で銀メダルを獲得した中田璃士(16歳)。演技中に何度もガッズポーズを決めた、その真意とは?
「85点が出ればすごいと思っていたので、90点台なんて乗ると思っていなくて。頭が回りませんでした」
喜ぶよりも驚く、というほどのハイスコア。大躍進の2位発進となった。
翌日のフリーを迎える頃には、その驚きが自信へと変わっていた。会場に到着し、アリーナの玄関ドアをくぐりながら、中田は父にこう言った。
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「僕、3位以内に入るよ」
すると、今の日本男子の強さをよく知る中田コーチは「無理だよ、6位に入ったらすごいよ」と返す。中田も負けずに「いや、絶対に3位に入るよ」と宣言した。
このチャンスを絶対に逃さない
フリーの滑走順は、最終滑走の鍵山優真の直前となる23番。他の男子の演技がすべて終わってからの順番である。
「自分の演技が始まるまでは、誰の演技も見ないで、点数も聞いていませんでした。自分に集中して『このチャンスを絶対に逃さないぞ』とだけ考えていました」
本番、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の曲に乗り、自身初となる4回転ループを軽やかに降りる。続いて完璧な4回転トウループを決めた。もはやトレードマークともいえるガッツポーズを、ジャンプを降りるたびに繰り返す。4回転ループにはGOE「+1.05」、4回転トウループにはGOE「+2.99」がついた。
「4回転ループは朝の練習でも降りていたので、自分を信じて跳びに行きました。自分の中では『超きれいに決まったな』と思ったんですけど、後でスコア見たら、そこまででもなかったです(笑)」
初成功しただけで満足せず、GOEの加点をもっと望むあたりが中田らしい。すべてのエレメンツを終え、立て膝のフィニッシュポーズを取ると、そのまま氷の上に大の字に倒れ込んだ。
「ノーミスをしたら絶対に(大の字を)やりたいと思っていました。今日はやりきったな、と思いました」
得点を待つ間は「ガッツポーズやりすぎたよ、演歌歌手みたいだよ」と中田コーチが苦笑いする。得点は、フリー173.68点、総合263.99点で、鍵山を残して「現時点で1位」。宇野昌磨、そして鍵山優真以来となる、ジュニア選手の全日本選手権メダルが確定した。
「こんなことが起こるとは、多分誰も想定してなかったと思います。日本で一番の大舞台で、この演技を出来たことが嬉しいです。この大会で4回転ループをただ1人降りて、僕の人生で初めて4回転2本を降りて、本当に嬉しかったです」
「日本初」のタイトルを残していきたい
次の目標は、2月に開催される世界ジュニアでの優勝だ。
「ここで喜んで終わりにするのではなくて、ここで4回転2本を出来たということは(2月の)世界ジュニアでも出来るということ。ジャンプ構成を落とさないでやりたいです」
シニアの年齢が15歳から17歳に引き上げになったことで、中田はあと2季ジュニアが続く。
「世界ジュニアを2連覇した日本男子はいないので、僕はまず今季優勝して、そして来季も絶対優勝したいです。あとは4回転アクセルを日本男子初で降りたい。スケート人生は長いので、『日本初』のタイトルを残していきたいです」
貪欲な気持ちが溢れて仕方ないといった様子。今はまだ、ビッグマウスと思われるかも知れない。でもいつか本当のヒストリーメーカーになったとき「伝説はあの全日本選手権から始まった」と言われるはず。鼻息荒い16歳は、誰よりも大きな夢に向かって羽ばたいていく。