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「朝倉海の顔が真っ赤になって…」右腕一本で衝撃の失神…“異例のUFC王座挑戦”も王者は辛口評価「日本から来たヤツがベルトを奪えると思ったか?」
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byGetty Images
posted2024/12/12 19:16
12月7日、UFC初戦でフライ級王者のアレッシャンドリ・パントージャに挑んだ朝倉海。リアネイキドチョークで一本負けを喫した
もっとも海外にまで目を向けてみると、パントージャの勝利を予想する声が多かったのは間違いない。翻って日本はどうだったかといえば、朝倉に期待する声が圧倒的に多かったように思う。決戦前日、筆者は“日本MMAの礎を築いた男”中井祐樹と話す機会があった。中井は両者の戦力差と、試合の持つ意味についてこう語っていた。
「パントージャが有利だと思うけど、朝倉選手に頑張ってほしい。ここで勝つと負けるのとでは全然違うので」
冷静に勝負を見極めるブラジリアン柔術の重鎮ならではの意見だと頷くしかなかった。これまでUFCで日本人ファイターが王者になったことは一度もない。UFCのタイトルに最も近づいた日本人ファイターである堀口恭司も、2015年4月、当時フライ級王者だったデメトリアス・ジョンソン(米国)の牙城を崩すまでには至らず、5ラウンド終了間際に腕ひしぎ十字固めで一本負けを喫している。
日本人ファイターとしてUFCで最多の14勝をあげている岡見勇信は、2011年8月に当時ミドル級の絶対王者だったアンデウソン・シウバ(ブラジル)に挑み、2ラウンド、右フックからのパウンドに沈んだ。堀口の挑戦以降、今回の朝倉まで日本人ファイター絡みのタイトルマッチは組まれていなかった。
「いきなり王者に…」膨らんでいった幻想
2007年のPRIDE消滅以降、日本のMMA市場はガラパゴス化が進行しているという見方をする識者は多い。好意的に解釈すれば、独自の発展を遂げている国。その一方で世界標準とは乖離していると言わざるをえない一面もあった。UFCで勝負する者は少なかったし、堀口や岡見といった例外を除いて結果も残せなかったのだから仕方あるまい。
RIZINに北米のメジャープロモーションのひとつだったBellatorの現役王者やトップクラスが参戦するようになると、ときにはRIZINサイドの選手が勝つこともあった。もっとも、散発的な勝利で完全に過去のイメージを払拭できたわけではなかった。事実、2022年大晦日の対抗戦ではBellator側が5戦5勝という結果を残している。
朝倉がUFCの本拠地であるラスベガスで王者になるということは、長い間閉ざされていた重い扉が開かれるということを意味していた。だからこそ、多くの選手や識者は「勝ってほしい」という願いを朝倉に託したのだろう。
もちろん、朝倉の勝利を予想する者にも根拠はあった。そのひとつとなったのが、日本人離れした打撃の強さだ。