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「朝倉海の顔が真っ赤になって…」右腕一本で衝撃の失神…“異例のUFC王座挑戦”も王者は辛口評価「日本から来たヤツがベルトを奪えると思ったか?」
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byGetty Images
posted2024/12/12 19:16
12月7日、UFC初戦でフライ級王者のアレッシャンドリ・パントージャに挑んだ朝倉海。リアネイキドチョークで一本負けを喫した
不良少年更生のための格闘技イベント「THE OUTSIDER」で王者となり、国内最大の格闘技イベントであるRIZINへ。ここでも兄・未来とともに活躍し、抜群の打撃力を武器に2度にわたりRIZINバンタム級王者に就く。この壮大なサクセスストーリーの第3部として、UFCが用意されているのではないか。そんな淡い期待もあった。
パントージャを破り日本人初のUFC王者となれば、2017年を最後に開催されていないUFC日本大会への機運も一気に高まるはずだった。朝倉を通してUFCに関心を持つ者が増え、国内においてMMAそのもののステータスが向上することも予想された。
大谷翔平を例にあげるまでもなく、日本人は海外の第一線で活躍する同胞をリスペクトする傾向がある。しかしながら、そのスタート地点に立つためには、マニア層だけではなくライト層にも届く知名度が必要になってくる。YouTuberとしても人気の朝倉だけに、商業的な面も含めてアジアのスター候補生としてUFCに招き入れられたのだろう。
結果的に、朝倉は普段UFCに興味を抱かないライト層や、一般メディアをも振り向かせることに成功した。しかし、だからこそ、「いきなり王者になるんじゃないか」という幻想は膨らむ一方だったのだ。
朝倉海のリズムを狂わせた王者の技術
しかし、現実はあまりにも厳しかった。「序盤、スタンドの打撃で朝倉が勝つ可能性は十分にある」という見立てに反して、パントージャは朝倉が前に出ようとすると絶妙のタイミングで関節蹴り(相手のヒザ関節を狙う蹴り)を放ち、挑戦者のアタックを何度も止めていた。リードブローの刺し合いでも優位に立った。こういった攻防で、朝倉の打撃のリズムは大きく狂ってしまったのではないか。
一方、グラウンドに関していえば、試合前からパントージャが有利なのは明らかだった。その予想通り、片腕だけで相手を落とす絞めのテクニックには脱帽するしかない。
それ以上に筆者が感じたのは、UFCのナンバーシリーズのメインマッチという、少なくともMMAでは世界最高峰の舞台の空気をパントージャが味方につけていたことだ。日本の格闘技イベントの会場とは明らかに違う。雰囲気としては、鉄火場に近いとでも言えばいいだろうか。歓声やブーイングによって、アメリカの観客は試合の空気を支配しようとしているようにさえ見える。