- #1
- #2
球体とリズムBACK NUMBER
「親友の死、灰にされる母国…つらすぎる」W杯予選で韓国相手に健闘…“J1加入直前だった”パレスチナ代表MFに直撃「ソンの称賛に感動したよ」
posted2024/12/07 11:00
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Etsuo Hara/Getty Images
テキストメッセージの返事がない時に現実を
「命あるかぎり、すべての辛苦は君を強くする」
このニーチェの言葉をパレスチナ出身のフットボーラーが口にすると、深く重く響く。
ヨルダン川西岸地区のラマラーで生まれたモハメド・ラシドは昨年12月、近しい友人をイスラエル軍の爆撃で失った。ガザ北部のジャバリアの難民キャンプにいた腕利きの若き映像ディレクターは、本稿の主役で現在29歳のパレスチナ代表MFのクリップ──YouTubeで観ることができる──を作ってくれていたという。
「僕らは本当に毎日のように連絡を取っていたから、いまだに信じられないんだ。時にその事実を忘れてしまってテキストメッセージを送ってしまい、返事がない時に現実を思い出す。でも生前の彼はガザ北部にいたこともあり、じきにやられてしまうと予期していた。悲しいことに。
親友の死、灰にされる街、水と食料など生活に必要なものの不足……自分の祖国が滅茶苦茶にされるところを見るのは辛い。辛すぎる。でも僕らはその思いをピッチ上で力に変え、歴史を塗り替えてきたんだ」
母国サポーターの前でプレーできないのは辛い
パレスチナ代表は今、W杯アジア最終予選を戦っている。同代表史上初の快挙だ。しかも彼らは自国でホームゲームを開催できないと判断され、2019年から他国でホームゲームを行なっている。昨年10月に紛争が始まってから4万人(うち約7割が女性と子供)を超える死者が確認されているガザでは(イスラエル側は2000人未満)、パレスチナ最古のスタジアムのひとつ、ヤルムーク・スタジアムがイスラエル軍によって破壊された。
「母国のサポーターの前でプレーできないのは、本当に辛いし、フェアじゃないと思う。でもこうした決定も、終わらないひどい侵攻と同じように、僕やあなたに変えられることではない。残念ながら、非力なひとりの選手や市民には、どうしようもないことだ。だからどうにかして、ポジティブな側面を見出すようにしている。つまるところ、僕たちはほとんどの同胞と比べると幸運だから。
祖国で人々は侵略や飢え、疫病に苦しんでいるが、僕たちは食事も睡眠も十分に取れて、フットボールの試合ができる。ホームゲームがカタールやヨルダン、マレーシアで行われようとね。この逆境もまた、大きなモチベーションにするしかないんだ」