酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
トライアウト舞台裏…「パパー!」号泣する息子や新潟ユニの陽岱鋼、“5年前の戦力外投手”は最速151キロ「今回で終わりと決まったわけでは」
posted2024/11/15 17:03
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Kou Hiroo
選手入場口の前で、号泣している子供が
例年、NPBの12球団合同トライアウトは「寒かった」という記憶がある。晩秋の寒さに加えて、多くの選手にとっての「プロ野球生活最後の日」に立ち会うことへの、厳粛な思いも影響しているのかもしれない。今年は千葉ロッテマリーンズの本拠地、ZOZOマリンスタジアムで行われた。
海浜幕張からタクシーに乗ったが、後ろに並んでいた夫婦に「一緒にどうですか?」と声をかけた。ライオンズのファンで今日は伊藤翔のプレー姿を見届けに来たと言う。
伊藤は地元千葉の横芝敬愛高から徳島インディゴソックスに入り、西武にドラフト3位の高い評価で入団した右腕だ。しかしNPBでは1年目に挙げた3勝どまり。そんな伊藤のために来るファンもいるのは、選手冥利に尽きるだろう。
トライアウトでは、関係者には3種類のタグが配られる。我々報道陣は赤いタグ、スカウトや編成、球団関係者は黄色いタグ、そして「選手関係者」には黄緑色だ。
選手入場口の前で、大声で泣いている子供がいる。黄緑色のタグの家族連れだ。選手の家族なのだろう。トライアウトでは子供がよく泣くのを目にするが、小学生くらいの男の子にとって「プロ野球選手の父親」はヒーローである。学校でも自慢ができる。そんな自慢のお父さんが、ヒーローじゃなくなってしまう。そりゃ悲しいはずだ。
観客席では、ヤクルトの西田明央の打席で「パパー!」と叫ぶ子供の声が聞こえたが、選手の家族にとっても一生忘れられない日になるはずだ。
地元が千葉なのでZOZOマリンで投げたいな、と
今回のトライアウトの参加者は45人、昨年は58人、一昨年は49人だった。
キャッチボール、シートノックが終わって10時半からメインの「シート打撃」が始まる。ソフトバンクの小林珠維から投手が次々とマウンドに上がる。
昨年、投手は1-1のカウントから3人の打者と対戦したが、今年は0-0から。ただし対戦する打者は2人だけ。投手はマウンドから降りるとすぐに帰ってしまう。だからその都度、つかまえて話を聞かなくてはならない。
2人目のソフトバンク、中村亮太は東農大オホーツクで周東佑京の3年後輩である。三好大倫、黒川凱星にそれぞれ初球を連続安打されて終わった。とはいえ、表情は明るかった。
「地元が千葉なのでZOZOマリンで投げたいなあ、と思っていました。トライアウトのために練習してきたし、これからもオープン戦、キャンプに合わせて練習していきます。両親も来ていたので、2球で終わってしまって『交通費の無駄だろ』って言われるかもしれない(笑)」