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思い出すのは伝説の雨のセナ…「ガレージを破壊したい」窮地のフェルスタッペンを救ったサンパウロの雨と別次元の超絶ドライビング
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images / Red Bull Content Pool
posted2024/11/08 11:03
大混乱に陥った雨のサンパウロGPで、フェルスタッペンはセナを彷彿させる走りを見せ優勝を遂げた
今年はセナが94年のイモラで天に召されてから30年という節目の年。セナの母国ブラジルのインテルラゴス・サーキットで開催されたサンパウロGPでは週末、追悼イベント「SENNA SEMPRE」が実施され、90年にセナが2度目のチャンピオンに輝いたMP4/5Bのデモ走行も行なわれた。
しかし、その週末のサンパウロは土曜日から雨に見舞われ、予選は延期。日曜日に予選とレースを行う異例のスケジュールとなった。しかも、日曜日に延期された予選も雨となり、赤旗中断が相次いだ。その赤旗の不利を被る形で予選12位に沈んだのが、王者マックス・フェルスタッペン(レッドブル)だった。
前日のスプリントでライバルのランド・ノリス(マクラーレン)が優勝し、4位だったフェルスタッペンはチャンピオンシップ争いで44点差にまで詰められていた。しかも、このレースでパワーユニットを交換したことにより5番手降格が決まっており、決勝は17番手からのスタートとなってしまった。一方、ノリスはポールポジションを獲得。一気に25点縮められるかもしれない窮地に陥ったフェルスタッペンは、予選後「ガレージを破壊したい」衝動にかられるほど苛立っていた。
ところが、ブラジルの雨が奇跡を起こした。
セナを彷彿させる脅威のオーバーテイクショー
17番手からスタートしたフェルスタッペンは、1コーナーまでに3台を抜くと、2コーナーから3コーナーにかけての左コーナーで敢えてレコードラインを外してアウト側を走行。ここで3台を豪快にオーバーテイク。これを見ていたレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表の脳裏にあの伝説のオープニングラップが蘇ったという。
「マックスのあのオープニングラップは、93年のドニントンを彷彿させるものだった。1周目に6台を抜いたと思う。あれで、流れを大きく引き寄せられたと思う」
レースはその後も雨によって、コースアウトやクラッシュするドライバーが続出する波乱の展開となったが、フェルスタッペンによるオーバーテイクショーは続いた。その走りは6位に終わったノリスが「もし彼が前方からスタートしていたら、おそらく僕たちを周回遅れにしていたと思う」と言うほど速く、この日のレースでフェルスタッペンに抜かれて2位に終わったオコンもこう評したほどだった。
「優勝争いをしていて1コーナーでインを差されたときは、まったく太刀打ちできなかった。だから、レース後に彼に尋ねたんだ。『どうしてあんなに遅くブレーキングしているのに、フロントタイヤをロックさせることなく、抜くことができたのか』って。僕も含めて多くのドライバーが雨の中でフロントをロックさせていたと思う。でも、マックスだけ違っていた。まさに別次元だった」
大逆転で6月のスペインGP以来、11戦ぶりの勝利を飾ったフェルスタッペン。F1で17番手以下からスタートしたドライバーが優勝したのは、05年の日本GPでのキミ・ライコネン以来、19年ぶりのことだった。
セナが眠るサンパウロで、雨のマックスが4度目の王座を大きく手繰り寄せた。