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思い出すのは伝説の雨のセナ…「ガレージを破壊したい」窮地のフェルスタッペンを救ったサンパウロの雨と別次元の超絶ドライビング
posted2024/11/08 11:03
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images / Red Bull Content Pool
「僕たちレーシングドライバーにとって非常に重要な人物が、かつて語っていた言葉がある。『雨の中では、マシンの性能はほぼ互角になる』と。その言葉がまったく色あせていないことは、この日のレースを見れば、わかると思う」
これは今年のサンパウロGPで表彰台に上がったエステバン・オコンが、レース後に語った言葉だ。オコンが示唆した「レーシングドライバーにとって非常に重要な人物」とは、ブラジルが生んだ偉大なF1ドライバーであるアイルトン・セナのことだ。
セナの名を一躍世界に知らしめたのは、彼がF1にデビューした1984年のモナコGPだ。雨で滑りやすいモナコの市街地コースに多くの先輩ドライバーたちが悪戦苦闘する中、13番手からスタートしたルーキーのセナは、当時決して戦闘力が高いとは言えなかったトールマンのマシンを巧みに駆って2位でフィニッシュした。赤旗によりレースが途中終了となっていなければ優勝していたであろうその走りを、人々は「雨のセナ」と称えた。
雨のセナが残した数々の伝説
その後もセナは、雨の中で行われたレースで多くのファンを魅了した。
初優勝を飾った85年のポルトガルGPもそのひとつ。レースは前年のモナコGP以上に激しい雨が降る中で行われ、ストレート上でもアクアプレーニング現象によってスピンするドライバーが続出するほどだった。完走したのは26台中9台というサバイバルレース。そんな中、セナは3番手以下を周回遅れにする別次元の走りを披露して、雨の中で輝きを放った。
セナがファンを魅了した雨のレースの中でも、最高と言われているレースが93年にイギリス・ドニントンパーク・サーキットで行われたヨーロッパGPだ。典型的なブリティッシュ・ウェザーのもと始まったレースは、オープニングラップからいきなりクライマックスを迎える。前年限りでホンダ・エンジンを失ったセナはフォードのカスタマーエンジンを搭載するマクラーレンを駆って予選は4位。スタート直後には1つポジションを落として5番手に後退した。
ところが、ここからセナの伝説の走りが始まる。1コーナーでミハエル・シューマッハを抜くと、前を走るカール・ヴェンドリンガーを敢えてレコードラインを外してオーバーテイクし、見ている者たちを驚かせた。その直後に2番手のデーモン・ヒルを難なくかわすと、最終コーナー手前のヘアピンでアラン・プロストも抜いて、1周目でいきなりトップに立った。わずか1周で4台を抜いたセナの走りは、F1史上最高のオープニングラップとも言われている(決勝結果は2位ヒルに1分以上の大差をつけてセナの優勝)。