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「これで、終わったと思った」巨人・梶谷隆幸(36歳)が引退で振り返る“気持ちが切れた”瞬間とは?…同期入団の親友に語った「坂本勇人からの言葉」
text by
高森勇旗Yuki Takamori
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/11/03 11:02
18年間のプロ生活を終えた巨人の梶谷隆幸。引退決断の決定的瞬間はどんな時だったのか。また、同い年の盟友・坂本勇人がかけた言葉は?
一日、一打席、一球に対する向き合い方。鬼気迫る準備の迫力は、当時ヘッドコーチであった阿部慎之助現監督にも伝わっていただろう。これだけ体の状態が安定しない梶谷を起用し続けるのは、この”姿勢“をチームに浸透させるためだったのかもしれない。
2024年の開幕戦で見せたあまりにも劇的な活躍は、これまでケガをしていたことを忘れさせるくらいの動きであったが、前述したように開幕4戦目を前に離脱。約1カ月の調整を経て戻ってきたのは、最初に戦線を離脱したナゴヤドーム。
その練習中、左膝にこれまでに経験したことのないような衝撃が走った。何が起きたかは、何年も体と向き合い続けてきた梶谷にとって、容易に想像がつくものだった。
「気持ちが、完全に切れてしまった」
「これで、終わったと思った」
その痛みよりも脳裏によぎったのは、もうこれで、一軍に呼ばれることはないだろうということ。調整を経て、ようやく復帰してすぐに、また同じ箇所をやってしまった。「梶谷、またか。もうダメか」と、周囲が思うよりも先に、誰よりも自分が思った。後から後からやってくる膝の痛みは、野球はおろか、もう二度と走ることはできないだろうと予想できるほど強くなっていった。
全てが、終わった。
意識も、魂も失ったようにさまよい、ナゴヤドームのブルペンの階段に腰かけた。放心の梶谷に二岡智宏ヘッドコーチが近寄る。同じく膝を手術した経験があり、「辛いだろうけど、まだ諦めるな」と声をかける。その瞬間、これまで築き上げてきたものが一気に崩壊し、嗚咽が止まらぬほどに涙が流れた。
「気持ちが、完全に切れてしまった。今、ここで気持ちが切れたということが、本当に音が聞こえるくらいに分かった。その瞬間、全てが違って見えた。コーチ、裏方さん、いろんな人が横を通っていったけど、そっと肩に手を添えていくだけだった。声もかけられない状態だったんだと思う」