1年目に腰椎を疲労骨折してから3年間、故障と向き合ってきた。4年目に最優秀中継ぎのタイトル、そして5年目には日本代表としてワールド・ベースボール・クラシックの世界一と、それまでの苦難は報われた。だが、それでもなお、神様は黄色靭帯骨化症という試練を与える。

　湯浅は涙に暮れた原点を思い出す。そして、悲劇を力に変え、前へと進む。

　手術をした今年の8月。湯浅は甲子園出場を決めた聖光学院に野球道具をプレゼントした。そこには、チームへの激励とともに、今の自分の想いも込められているのだという。

　湯浅は「後輩たちに伝えてください」と、岩永にこんなメッセージを贈っている。

「今年は甲子園のマウンドに立てなくてチームに貢献できず、めちゃくちゃ悔しく、歯がゆい思いをしてきました。そんななか病気がわかり、手術をすることになったところで母校が甲子園を決めてくれました。タイガースのホームで自分の分まで躍動してほしい、暴れてほしい。この想いを伝えてください」

　ほとばしる情熱に触れた岩永は、「どこまで前向きなんだよ！　ってくらい前向きですから」と、愛弟子の歩みに目じりを下げる。

湯浅の前向きさの「原点」は…？

　岩永が驚嘆する湯浅の「前向き」の根っこ。斎藤が「これは最大限の賛辞」だと言い、教え子に届けたいとばかりに口を開く。

「一番野球がやりたい高校のときに野球ができず、マネージャーの道を選んで選手のために米を研ぎ、おかずを作り、試合になればベンチでスコアブックを書く。そういう遠回りの野球人生が用意されたのは、湯浅だからなのかもしれないね。あいつには、弱いところから這い上がってやろうとする謙虚さと意志の強さがあっから。

　プロに入ってからの怪我も今年の病気も、普通だったら『なんで俺ばっか……』ってなるじゃない。でも、あいつはならねぇ。それは、苦労に慣れてるからじゃねぇんだ。困難にぶち当たったときの受け止め方を湯浅なりに学んだから、前向きでいられるんじゃねぇのかなって俺は思うね」

　今はまだ、成功とは言えない男の野球人生。

　彼の歩みは、夢が遠のき、失意の真っただ中にいる者たちにとっての光となる。湯浅京己という野球選手が、俺たちをいつだって前向きにさせてくれる、と。

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誰も「プロ野球選手になるなんて思わなかった」 高校ではマネージャー→名門大入試は断念…湯浅京己（25歳）が“下剋上ドラフト”で阪神に入るまで