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引退の西武・金子侑司“アンチコメント”に悩み「正直、きついですよ」と口にした日も…華やかなプレーの陰で貫いた「信念の両打ち」と繊細な素顔
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byKYODO
posted2024/10/15 11:00
引退セレモニーでチームメートに胴上げされる金子
内野手として入団したが、当時のチーム事情もあってオープン戦の最中から外野の練習をスタートした。確か、デーゲーム終了後のことだったと思う。当時の外野守備コーチとともに球場に居残って外野守備の練習を始めた。コーチが打つフライや、ライナー性の打球を難なく処理する姿を見て、学生時代に数回、守った経験があるだけだという事実に驚いた。
小一時間、守備練習をすると、翌日の試合には外野手として出場。急造の外野手とはとても思えない動きに驚いた記憶がある。
チャンスをつかみ取る力
3月29日、北海道日本ハムファイターズとの開幕戦には7番・右翼手としてプロ初スタメンで初出場。その年、金子は94試合に出場し、外野のレギュラー争いで他の選手を一歩リードした。スター性のある選手というのは、こうしたチャンスをつかみとる力にも長けているのだと感嘆した覚えがある。
2016年には初の盗塁王タイトルに輝き(53個)、2019年には41盗塁を記録して2度目のタイトル獲得。ライオンズのリーグ連覇に貢献した。しかし2020年は、海外移籍した秋山翔吾の後継者として1番・中堅を任されながら86試合の出場にとどまる。翌2021年シーズンは101試合に出場するものの、打率は1割台後半。盗塁数も9と一桁で終わった。
2021年のシーズン終了後、長い時間、金子に話を聞く機会があった。
「振り返りたくない」苦悩のシーズン
どんなシーズンだったかと聞くと「振り返らなくていいなら振り返りたくない」と率直に言われた記憶がある。
困っている筆者の気持ちを察したのか、その後は思いを語ってくれたのだが、とにかく苦しいシーズンだったのはその表情から見て取れた。なかなか打撃不振から抜け出せず、フォームやタイミングの取り方を変えても「すべてしっくりこない」と振り返っていた。
2021年シーズン、金子の左打席と右打席での打率に差があったことが気になっていた筆者は、思い切って「どちらかに専念しようと思ったことはないか」と尋ねたことがある。すると「それはない」と即座に答えが返ってきた。答えるまでの早さや表情を見て、金子の覚悟の強さを知った。
信念のスイッチヒッター
「入団2年目くらいですかね。コーチに勧められたことはあるんですけど。最初は『コーチのアドバイスを聞き入れることも大事かな』と思って練習したんですが、『やっぱり戻させてください』と自分から言ってスイッチヒッターに戻りました。ここまでやってきて、今更やめることはもうないです。スイッチヒッターをやめるときは、プロ野球選手をやめるとき。努力して続けてきたことだし、誰しもができることではない。スイッチでプロ野球選手になれる人も少ない。自分の野球人生が終わったときに、スイッチを貫いてきてよかったなって思えるように続けたいです」
信念を持って取り組んだ両打ちだった。