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「こんな簡単なことだったんだ」どん底での苦闘の末にDeNA伊勢大夢26歳がたどり着いた「ひらめき」…CSに向け「今は確信を持てている」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2024/10/07 11:00
1998年生まれの26歳。2019年ドラフト3位入団。九州学院高校ではヤクルト村上宗隆の2年先輩だった
こんな簡単なことで…
それを払しょくすることができたのは、9月10日の阪神戦(甲子園)の前のことだ。
「結局、無意識にできていたことが、意識しないとできなくなっていたんです。投球の際、僕は右足が(地面から)離れるのが早くて、最後は左足一本でリリースしている感じなんです。コーチからいろいろアドバイスを受けたり動画を見ながら、じゃあ左足の使い方なんだと自分で気づいて、以前は止めるように使っていた左足を、極端に言うとキックバックするように使う。甲子園の時にそれにひらめいて、キャッチボールしてみるとすごく感覚がいい。真っすぐも全然違うし、バッターの見え方も変わった。ああ、こんな簡単なことだったんだって……。以前は無意識のうちにやれていたことだったので気づけなかった。けどトレーニングやアドバイスなど、いろんなことで要因を潰せたからたどり着けたんだと思います」
伊勢は、苦笑しつつ続けた。
「ルーキーの時から真っすぐは通用していたし、3年目にああいう成績(71試合登板)を残せたので、自分の中ではピッチングに根拠があると思っていたんですが、実際のところ自分の体の使い方に関しては、探れてはいなかった。失敗がなければ、この境地には至れなかったと思います。だから今は確信を持って投げることができています。3年目あたりは勢いのまま投げていたんですけど、今は言葉にするのは難しいけど、こうやれば抑えられるという確証はあります」
キャリア、トレーニング、メカニクス、知恵と知識と気づき。伊勢は26歳とまだ若いが、そう語る様子からは、ほんの少しだけ円熟味の香りがした。
早くCSの試合がしたい
「正直言って、自分は順調にキャリアを重ねられると思っていたんですけど、結局そこには確たる理由がなかった。だからこれからは、どんどん理由と根拠をつけていきたいし、考え方も深まっていくと思います。ファームにいるときは、あの3年目を忘れるという思いでやれたことがいい経験になりました。ただ、あの数字(71試合登板)というのは、今後も自分につきまとうものだと思うのですが、こだわることなく、すべてが終わって気づいたら『あの年よりやれた』というシーズンが作れるようにこれからもレベルアップしていきたいですね」
静かに、そして熱量を帯びた口調で伊勢は言った。ただ、まだ熱い秋は終わらない。阪神とのCSファーストステージが、12日から今季自分を取り戻した甲子園で開催される。シビアな試合において、セットアッパーの伊勢が重要な役割を担うことは言うまでもない。
「過去2年CSを経験して、やはり点が入らない展開が多いと思うので、ブルペン全員で頑張れるように、自分としては投げるのはもちろん、声掛けしていきたいと思います」
そう言うと伊勢は、好戦的な、それでいて楽しそうな表情をするのだ。
「普段とは違う緊張感の中、僕自身わくわくしてマウンドに上がれると思うので、早く試合がしたいですね」
今季のペナントレースにおける成績は、40試合登板に届かず、防御率も3点台半ばとキャリアを鑑みれば決して芳しいものではなかった。スランプやミニキャンプ、緊急降板など、キャリアの中で一番紆余曲折のあったシーズンだったと言える。しかしその分、プロ野球選手として得るものが多かったのもまた事実。今年一年を総括するCS、果ては日本シリーズで伊勢がどのようなピッチングをするのか注目したい。