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米国人番記者がいま明かす「オオタニにベテラン勢から不満の声もあった」半年間でベッツもカーショーも大谷翔平を尊敬「水原一平事件で“壁”が消えた」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2024/10/06 17:01
「ショウヘイはジョークも言うし、笑わせてくれるんだよ」ドジャースの捕手バーンズ(34歳)はこう証言する
「あんな状況になったことが良かったとは言えないけれど、彼は自分でコミュニケーションを取る必要に迫られたことで、かえってチームの一員になれたと感じられたんじゃないだろうか。なぜなら、彼の人生にとっておそらく最悪の事態になったにもかかわらず、僕たちチームメイトが、どれだけ彼のことを信じ、サポートしていたかを感じただろうから」
どうやら、大谷と賭博の関係を探ろうとするメディアよりも、チームメイトたちの方が大谷のことを信じていたようだ。
あの事件が、新しいスタートになったのだ。
「簡単な日本語を覚えた」ヘルナンデス
ハリス記者の記事を読むと、エンジェルス時代は水原通訳の存在が、大谷にとっての「門衛」のような働きをしていたことで、チームメイトとの間に距離が出来ていたことが容易に想像できる。
水原通訳は、大谷を囲うことで、自分の居場所を確保しようとしていたのか。
水原一平違法賭博事件は、大谷の口座から多額の金銭が失われるという不幸な出来事だったが、結果として水原通訳はドジャースを解雇され、大谷は自分のことだけに集中するのではなく、新しいチームメイトとの関係構築に労力を割く必要に迫られた。
なかでも、早い時期に大谷に飛び込んだのはテオスカー・ヘルナンデスだった。ヘルナンデスは大谷に簡単なスペイン語をレクチャーし、大谷は簡単な日本語をヘルナンデスに教えたという。
禍福は糾える縄の如し。
人生、なにが幸いするか分からない。何十億円という金銭損失の痛みは常人の想像の及ばぬところだが、水原通訳が去ったことは、大谷にとってある意味で「厄落とし」になったのかもしれない。
ベッツ「7億ドルもらう価値がある」
そして、シーズンが深まると同時に、大谷の勝利への執念が、他のチームメイトたちのリスペクトを勝ち得たことをハリス記者は紹介している。
8月以降、大谷が「40―40」、「50―50」に挑戦していく過程で、地元メディア、さらには日本メディアから、チームメイトに対して大谷に関するインタビューが数多く成されるようになった(大谷にダイレクトに質問する機会が限られているからだろう)。
ムーキー・ベッツは「大谷がチームを牽引していることは明白だ」と認めたうえで、こう話している。