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「火星人にしかできない所業」大谷翔平の偉業は“野球不毛の地”欧州でどう報じられた? イタリア代表捕手「オータニは本当に“フェノメノ”」
posted2024/09/29 06:02
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Nanae Suzuki
大西洋を隔てて、大谷翔平が“50-50”を達成した翌日、エスプレッソを飲みに入った近所のバールで「オータニ」の名前を出してみたが、何の反応もなかった。
「ドジャース」どころか「ホームラン」という単語すら皆目見当がつかない人たちばかり。イタリアはサッカーの国だ。
メジャーリーグ史上空前の大記録だというのに、その日のイタリア国営放送RAIのニュース番組が大きく報道したのは、国内北部の水害に露ウ戦争、90歳の卒寿を迎えた大女優ソフィア・ローレンの誕生日ネタ。スポーツコーナーになっても、話題は2日前に亡くなった90年イタリアW杯得点王サルヴァトーレ・スキラッチの葬儀と前夜のUEFAチャンピオンズリーグの試合結果。やはり、ここはサッカーの国だ。
「オータニは本当に“フェノメノ(怪物)”」
しかし、イタリアは戦後間もない1948年から自国リーグを連綿と続けている、欧州きっての野球国でもある。
代々ドジャースを範にとったユニフォームを着用するイタリア代表チームが、侍ジャパンと戦った昨年春のWBC準々決勝を覚えている読者も多いのではないか。
日本戦の9回表にピッチャー大勢から代打でセンター前ヒットを打ったイタリア代表捕手アルベルト・ミネオに電話すると、彼は大谷の偉業に興奮していた。
「チンクアンタ・チンクアンタ……オータニは本当に“フェノメノ(怪物)”だよ!」
興奮のあまりミネオは血迷って変な言葉を発したのでは……との心配は御無用。「チンクアンタ」とは「50」を意味するイタリア語だ。
ミネオが正捕手としてマスクをかぶるイタリア野球1部リーグ、セリエAの名門チーム「1949パルマ・ベースボール・クラブ」は今季、14年ぶりの優勝を果たした。イタリア球界はすでに今季を終えシーズンオフに入っている。
ミネオはイタリアを代表する現役トッププレーヤーの一人で、米国でのプレー経験もある。それでも「50-50なんて……オータニはマジで宇宙人だよ」と感嘆するしかないのである。