バレーボールPRESSBACK NUMBER

「これで終わりなんだっけ…」男子バレー“まさかの逆転負け”の真相…敏腕コーチが映像を見直して確信「“イタリア戦”は完璧なスタートだった」 

text by

田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

PROFILE

photograph byKoji Aoki/AFLO SPORT

posted2024/09/27 11:05

「これで終わりなんだっけ…」男子バレー“まさかの逆転負け”の真相…敏腕コーチが映像を見直して確信「“イタリア戦”は完璧なスタートだった」<Number Web> photograph by Koji Aoki/AFLO SPORT

スタッフ全員が勝利を信じて疑わなかったパリ五輪・準々決勝イタリア戦

 世界ランキングでは日本が上回り、直近の対戦成績も勝ち越している。日本の勝利を予想する報道も多かったが、伊藤健士コーチは組み合わせが決定した瞬間から「最悪の展開だと思っていた」と明かす。

「最初に(組み合わせで)ドイツが入ってきた瞬間、(フィリップ・)ブランからは本音が漏れました。『ワーストだ』と。ドイツが強いチームだということは、誰もがわかっていましたから」

 五輪初戦というナーバスな雰囲気。しかも試合時間は慣れない朝9時スタート。スタッフ陣の嫌な予感は的中する。

 第1セットの序盤からギョルギ・グロゼルのサーブに連続失点を喫した日本は、第2、3セットを獲り返すも、第4セットを終盤のミスで失った。そのまま勢いで押し切られる形で第5セットも失い、フルセットの末に敗れた。

 敗れたとはいえ、勝ち点を1ポイント獲得したことに焦点を当てれば、マイナスばかりではないが、初戦で敗れたダメージは想像以上に大きくのしかかった。それはスタッフ陣も同様だった、と伊藤があの夜を振り返る。

「同室だった行武(広貴/アナリスト)と部屋で『栄光の架橋』を聴きました。(今考えると)明らかに引きずっていますよね。初戦を終えて『悲しみや苦しみの先に〜♪』ですから(笑)。まだ1戦でしたけど、崖っぷち。『栄光の架橋』を聴かずにいられませんでした」

 続くアルゼンチン戦で何とか勝利し、予選ラウンド最終戦のアメリカには敗れたが、1セットを奪取して準々決勝進出。薄氷を踏む思いで迎えたのが、イタリアとの準々決勝だった。

一緒に写真を撮りたかった日本人

 試合開始は13時。選手よりも先にスタッフ陣がコートに入った。伊藤と同じくブランの“右腕”を務めた行武は、ベンチ裏の席に「バカ殿」のコスチュームをした日本人サポーターの姿を見つけた。決戦の前で気持ちが高ぶっていたが、その姿を見て思わず笑みがこぼれ、心が落ち着いた。

「以前、先輩のアナリストから『海外で見る日の丸、君が代を聞く時の高揚感は何物にも代え難い』と言われたことがあったんです。僕は海外暮らしを経験していますし、今までも海外での試合で同様の思いを抱いたことはたくさんあったんですが、あの時、バカ殿姿の方を見つけた時は本当に嬉しくて。この試合に勝ったら、2人で一緒に写真を撮ってもらおう、いや選手にも呼び掛けて一緒に撮ってもらおうか、と思っていたぐらいでした」

 苦しんだ分、ここから一気に上がっていくだけ。大一番を前にしても、試合後のことを考える余裕があった。

 イタリアになら勝てるチャンスがある――そう確信したのは伊藤だ。

【次ページ】 見事に戦術がハマったイタリア戦

BACK 1 2 3 4 NEXT
フィリップ・ブラン
伊藤健士
行武広貴
村島陽介
坂本將眞
岸翔太郎
石川祐希
高橋藍
西田有志
関田誠大
パリ五輪
オリンピック・パラリンピック

バレーボールの前後の記事

ページトップ