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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「僕に噛みつくほど、勝利への執念がある」ドヘニーと戦った元世界王者・岩佐亮佑が見た井上尚弥戦…慎重な戦法は「性格も出ていたかなと」
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byNaoki Fukuda
posted2024/09/10 17:01
結局は井上に圧倒されたとはいえ、ドヘニーの戦いは決して恥ずべきものではなかった
ドヘニーは小心者なんです(笑)
「ドヘニーは意外に器用だから。1回から攻めても、カウンターで返り討ちにされるのは目に見えています。井上選手のパンチを警戒していたのは、よく分かりました。相手が相手です。まあ、そうなるよねと。ドヘニーっぽいなと思いました」
親しみを込め、「ドヘニーは小心者なんですよ」と冗談交じりに笑う。6年前、試合の前日計量で顔を合わせた日のことは、いまでも覚えている。筋骨隆々の男は鋭い目でにらみをきかせていたものの、岩佐が意表を突いて握手を求めると、戸惑いながら丁寧に応じたという。
「試したんです。人って、とっさに素が出ますから。強がっているんだなと思いました。根は優しいヤツなんです(笑)。殺気立っている強気な選手は手を差し出しても、払いのけたり、弾いたりするので。井上戦の慎重な戦い方にも、その性格的なものが見えた気がします」
タパレスよりはドヘニーのほうがチャンスがあるかなと
無論、客観的に勝利から逆算すれば、素直に頷ける戦略だった。井上も試合後に口にしていたが、ディフェンシブに戦いながら10ラウンドまで粘った同じ左構えのマーロン・タパレス(フィリピン)を参考にした節もある。
「井上選手もタパレス戦は、戦いにくそうにしていましたから。確かにドヘニーの戦い方は、タパレスに少し似ていたと思います。僕もサウスポーだったから分かりますが、オーソドックスの選手に対して、後ろ重心で相手から遠く離れる戦い方はセオリーの一つ。右の選手からすれば、すごくやりにくいので」
岩佐は、井上に挑んだタパレスとも5年前に戦って、世界王座に返り咲いた経験を持っている。だからこそ、感じるものもあった。
「タパレスよりはドヘニーのほうがワンチャンスあると思っていました。タパレスは技術的にも厳しかった。ドヘニーはパンチを当てる能力を持っていますから。当て勘があるので」
一発のわずかな可能性を感じつつも、2回、3回とラウンドが進んだ時点ではっきりと趨勢が見えてしまった。ドヘニー側からすれば、もらいたくない場所に的確にパンチが飛んできたのだ。