- #1
- #2
ボクシングPRESSBACK NUMBER
「僕に噛みつくほど、勝利への執念がある」ドヘニーと戦った元世界王者・岩佐亮佑が見た井上尚弥戦…慎重な戦法は「性格も出ていたかなと」
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byNaoki Fukuda
posted2024/09/10 17:01
結局は井上に圧倒されたとはいえ、ドヘニーの戦いは決して恥ずべきものではなかった
もともとドヘニーはボディが強くない
「井上選手は、左構えのドヘニーが前に出している右側の脇腹付近を狙って、ボディストレートをしっかり打ち込んでいました。完全に見切ったんでしょうね。井上選手に余裕が出てきて、いつもの無双モードに入りました。あの展開になれば、ドヘニーに勝ち目はないです。もう誰も当てられないし、無理に手を出そうとすれば、すべてカウンターで合わされます」
3回は2者のジャッジがドヘニーにつけているが、岩佐には追い詰められた末の反撃に見えた。それに対し、王者が慎重に対応しているだけだろうと。むしろ、想定外だったのは井上が一気に攻め立てなかったことである。
「いつもは見切れば、行くのですが、今回は行かないねー、と思っていました。じわじわと削っていく感じでした。もともとドヘニーはボディが強くないと思うので、余計に苦しそうでした」
あそこを打たれると、足までしびれます
5回以降はドヘニーの表情、動きを見ても、井上のボディストレートが効いているのは明らか。テレビ画面から痛みがひしひしと伝わってきたという。時間の経過とともに右の腹をかばうようになっていく。
「グロッキー状態であきらめ始めているようにも見えました。何もできなくなっていましたから。6回の終わりにはボディブローが嫌になり、背を向けたところに井上選手のパンチが腰下付近に入りましたよね。井上選手はボディを狙っていたので故意ではないのですが、もらったほうは痛い。坐骨神経だと思います。僕も腰痛持ちなので分かりますが、あそこを打たれれば、足までしびれます」
結末は、あっけなく訪れた。7回、再三苦しめられた真っ直ぐ伸びてくる右の拳が腹にめりこんだ。王者の連打が始まると、たまらず右手で腰を押さえて、足を引きずりながらヒザをつく。すぐにレフェリーが駆け寄り、腰の負傷で続行不可能と判断した。