- #1
- #2
ボクシングPRESSBACK NUMBER
「イノウエの頭にはネリ戦のダウンが…」井上尚弥の“奇妙なKO未遂”を英国人記者はどう見た?「ドヘニー陣営はパニックを起こしていた」
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/09/05 17:06
挑戦者TJ・ドヘニーを退けた井上尚弥(31歳)。“まさかの結末”にやや物足りなさを感じる試合となったが、上質なボクシングを披露した
とはいえ第4ラウンド以降、いつも通りに井上が支配を開始しました。結果的に、ボディブローを効果的に使ったのが大きかったですね。右ストレートがドヘニーの腹を貫き、その後に左右のパンチにつなげていました。加齢した選手をまず身体から痛めつけることで、あっさりと主導権を引き戻したのです。
第6ラウンド終盤のコンビネーションは強烈で、その次のラウンドのフィニッシュに直結しました。第7ラウンドの開始前、ドヘニー陣営はコーナーでパニックを起こしており、その時点で腰から腹部にかけて致命的な故障がすでに発生していたのでしょう。いずれにしてももう流れは一方的。優劣は明らかで、6ラウンド終盤のアクシデントがなくても結末は目前だったと思います。
ドヘニーのケガゆえ、今戦の結末は少々奇妙なものになりました。リプレイを見る限り、すでにダメージをため込んでいた挑戦者が6ラウンド終盤、臀部のあたりにパンチを受けたことが致命傷になったようです。腰の痛みの厳しさは多くの人がご存知の通り。そんなふうにダメージを受けた状態で“モンスター”と戦うべきではありません。井上は残念そうではありましたが、試合がストップされたのは仕方がないことだったと考えます。
「ネリ戦の記憶があったことは間違いない」
今回の井上が慎重に戦ったことを私はポジティブに捉えています。なぜなら、井上の身体はまだスーパーバンタム級として完成形に至っていないという背景があるから。この階級では小さすぎるなどというつもりはないですが、まだ身体作りの途上であり、あと1、2年は十分にこの階級で戦えるはずです。一方、ドヘニーはキャリアを通じてスーパーバンタム級で戦い続けた選手であり、サイズの違いは明白でした。
井上の頭の中にはルイス・ネリに痛烈なダウンを喫した前戦の初回の記憶があったことも間違いありません。ネリというKO率の高いパンチャーを相手に、あれほど激しく倒されたのであればそれは当然。今度の相手も左利きのパンチャーで、負ける可能性があるとすれば序盤にビッグパンチを貰ったときだけという認識なのであれば、序盤はある程度丁寧に戦うのは自然なことでしょう。積極的に出れば出るほど、被弾のチャンスもやはり増すわけですから。
12ラウンドもあるのなら、いきなり無鉄砲に攻める必要はない。特に今後、井上がフェザー級まで上げた時には体格的にはかなり劣るでしょうから、これまで以上に慎重に戦わなければならないはずです。井上はネリ戦で新たなレッスンを学び、その成果をドヘニー戦では賢明な形で生かしたというのが私の考え方です。