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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「イノウエの頭にはネリ戦のダウンが…」井上尚弥の“奇妙なKO未遂”を英国人記者はどう見た?「ドヘニー陣営はパニックを起こしていた」
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/09/05 17:06
挑戦者TJ・ドヘニーを退けた井上尚弥(31歳)。“まさかの結末”にやや物足りなさを感じる試合となったが、上質なボクシングを披露した
総合的にこの日の井上の出来を採点するなら“B”がふさわしいと思います。経験豊富なエリートレベルのボクサーによる賢明なパフォーマンス。相手のガードを開こうとした3ラウンドに幾つかのパンチをもらいましたが、クリーンなハードヒットはほとんどありませんでした。“A”ではなかったのはいつものように激しい形で試合を終わらせられなかったからですが、実際にはそれも井上の落ち度ではなく、普段通りの上質なボクシングだったと認識しています。
5月のネリ戦のあと、井上は1週間以上にわたってリングマガジンのパウンド・フォー・パウンド(PFP)・ランキングでもトップに返り咲きました。その後、オレクサンドル・ウシクがタイソン・フューリーに勝って1位に再浮上。クルーザー級の選手がヘビー級の巨漢王者を撃破という勝利はPFPの意味を象徴しており、ドヘニー戦の勝利のあとでも井上が1位に浮上するのは難しいのでしょう。
とはいえ、個人的な考えをいえば、私は依然として井上こそが世界最高のボクサーだと思っています。最高級の左フックを持ち、右パンチは最高レベルに危険な武器でもあります。ボディパンチャーとしても世界屈指で、オフェンス面では非の打ちどころがありません。ウシク、テレンス・クロフォードもまたビューティフルなボクサーですが、個々の武器を見ていくと井上が上回っているというのが私の意見です。
繰り返しますが、ドヘニー戦での勝ち方はこれまでほどエキサイティングではなかったのは事実でしょう。ただ、似たようなことはクロフォードが接戦の末にイスラエル・マドリモフを振り切った一戦にも言えたはず。ボクシングではスタイル的に普段のように派手な形では勝てないマッチアップが存在するのです。ここで世界中を震撼させるKOが生まれなかったとしても、井上の実力への評価の高さは私の中で変わりません。
(後編につづく)