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「大好きな人たちですが…」武居由樹と比嘉大吾“じつは同門”日本人対決なぜ面白い?「クセがある」「全部わかってます」両陣営“バチバチ”の理由
posted2024/09/02 11:03
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
井上尚弥(大橋)がスーパーバンタム級4団体防衛戦に臨む9月3日の有明アリーナで、注目を集めるもう一つの世界戦が、王者の武居由樹(大橋)が挑戦者に比嘉大吾(志成)を迎えるWBOバンタム級タイトルマッチだ。タイプの異なるハードパンチャー同士の一戦は「KO必至」の呼び声高く、比嘉の野木丈司トレーナーが多くの大橋ジム所属選手にフィジカルトレーニングを指導しているという両者の関係も興味深い。魅惑の強打者対決を、さまざまな角度からプレビューしてみよう。
「はっきり言って仲間」“じつは同門”の王者と挑戦者
8月19日、志成ジムで行われた公開練習で、野木トレーナーは視察に訪れた八重樫東トレーナーを意識して次のように発言した。
「(武居)チャンピオンも八重樫トレーナーも、はっきり言って仲間という意識が強くて、大好きな人たちなんですが、せっかくいただいたチャンスですから勝負に徹します」
翌日、大橋ジムでは大橋秀行会長が次のように述べた。
「比嘉選手は昔からよく知っているし、野木さんのトレーニングが大橋ジムの強さの根本になっているところもある。だからこそ、しっかり勝って恩返ししたい」
武居は世界初挑戦をする今年5月の試合前、比嘉から「絶対に獲ってきてよ、武居くん!」と声を掛けられたことをよく覚えている。両陣営はそんな関係なのだ。八重樫トレーナーは「今回はなんか不思議な感じなんですよね」と悩ましい表情を浮かべた。ちなみに比嘉は29歳、武居は一つ下の28歳である。
もう少し説明が必要だろう。野木トレーナーは昔から坂の多い横浜・根岸地区の坂道や階段を利用したフィジカルトレーニングを行ってきた。比嘉はこのトレーニングで強靱な肉体を作り上げ、フライ級時代にWBC王座獲得、15連続KO勝利の日本タイ記録を生み出した。
通称「野木トレ」の評判は広がり、やがて野木トレーナーの担当選手だけでなく、ジムや競技の垣根を越えてさまざまなアスリートが参加する名物トレーニングとなる。八重樫トレーナーは現役だった10年ほど前からトレーニングに参加。いまでも日本フェザー級王者の松本圭佑ら多くの大橋ジム勢が野木トレで汗を流し、武居もキックボクシングからボクシングに転向した3年ほど前から週に1度、野木トレーナーの指導を受けているのだ。