甲子園の風BACK NUMBER
「チャージ、弱くなかったか?」“奇跡のバックホーム再現”だけでなく…「打率.071のショート」に関東一の49歳監督が信頼を寄せるワケ
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/08/21 18:30
堅守で初の夏の日本一に王手をかけた関東一。東東京勢では95年帝京以来の真紅の大優勝旗獲得なるか
アウトとセーフが間一髪で決まる場面で、やや安全なプレーを選択した飛田は「一歩目からもう少し勢いよく前に出ていれば走者をアウトにできたかもしれません」と反省。ただ、記録には残らない小さな失敗を――最終回の記憶に残る大きな成功へとつなげた。
関東一の強さは、この試合にも凝縮されている勝負所の守備にある。
今大会は初戦を除いて3試合連続で1点差勝利。好守で試合の流れをつくり、勝敗を分ける場面の守備でミスをしない。一方、神村学園は7回に2つの失策が出て2点を失っている。無失策だった関東一とは守備で明暗が分かれる形となった。
劇的バックホームだけでなく…打率.071ショートへの信頼
決勝進出を決めた劇的なバックホームだけではない。守備から攻撃のリズムをつくるのは関東一の伝統となっている。米沢監督は、こう話す。
「選手たちは先輩たちを見て、守備が良ければ試合に出られると考えているのでしょう」
その象徴とも言える選手が遊撃手の市川歩選手だ。
打順は主に8番で、今大会は14打数1安打の打率.071。東東京大会でも打率は1割を切っている。だが、守備では再三、安打性の当たりをアウトにしている。バットでは見せ場をつくれていなくても指揮官の信頼は揺るがず、甲子園で全試合フル出場している。
「守備は個人的にもチームとしても自信を持っています。緊迫した場面で不安や緊張はありません。良いプレーをするとスタンドが沸くので、プラスのイメージを持って守っています」
“甲子園の魔物”対策は…指導者に依存せず選手に任せる
甲子園では相手の応援や観客の声援が「魔物」を招く要因ともされる。
それらに呑まれ、普段通りのプレーができなくなる選手が少なくない中、関東一はピンチでも平常心を失わない。その理由は、指導者に依存しないチームづくりも大きい。昨秋に遊撃手から一塁手に転向し、神村学園戦でもショートバウンドの送球をすくい上げてアウトにした越後駿祐選手が語る。
「全体練習後の自主練習の時間で、内野陣で守備を強化してきました。選手同士でお互いに指摘して高め合っています。自分たちで力を上げていくのが関一の形だと思っています」
試合中は監督が手助けできるわけではない。まして、大歓声の甲子園ではベンチからの声が届かないケースもある。