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高校野球で「ジャイキリ」続出…なぜ今年は“おらが町のチーム”が勝てる? 石橋、大社、掛川西…「選手はほとんど地元出身」公立校が大健闘のワケ
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/16 17:01
初戦で報徳学園、2回戦で創成館と強豪私学を破ってベスト16入りを決めた大社。選手は地元・出雲市出身がほとんどだという
今年の夏は、大社のように決して目立たずとも地道に育まれてきた伝統が日の目を見るチームが顕著である。
26年ぶりに夏の甲子園に帰ってきた静岡の掛川西もそうだ。前回出場の1998年にキャプテンとして出場した監督の大石卓哉もまた、中学時代に16年ぶりの出場となった93年夏の光景が強烈だったのだと回想する。
「甲子園で実際に試合を見たときに『こういう場所があるんだ』と感動して、迷いなくこの高校に入りました」
「地域の声援がすごい」静岡・掛川西も初戦突破
大石が抱いた憧憬は、今も継承されている。自宅のある浜松市から電車で1時間かけて通学するレフトの杉山侑生は、掛川工出身ながら掛川西野球部に憧れていた父・宜之の想いを胸に、一般入試で同校に入学した。
杉山が父から聞かされたのは、「とにかく地元の応援がすごい」ことだった。伊東市から掛川西にやってきたライトの田中朔太郎も、入学した理由のひとつにそこを挙げる。
「野球だけではなく『地域の応援がすごい』と聞いていたことも入学するきっかけになりました。実際に入ると、普段から地域の方に声をかけていただいたり、後援会にご支援していただいたり。すごく力になります」
地域に感謝する田中は、野球にも掛川西の伝統を感じている。
「俺たちは静岡の代表だから」
掛川市をはじめ県内の選手が中心となって構成されるチームは、常にそう発している。この誇りを貫くために、監督の大石が選手たちに口酸っぱく説くのがこれだ。
「うまい選手ではなく、強い選手になれ」
野球に置き換えて言えば、それは「当たり前のプレーを当たり前にやる」ことである。アウトになる確率が高いゴロであっても全力で一塁ベースを駆け抜ける。守備でも内・外野ともにカバーリングを怠らない。この「凡事徹底」が甲子園の大きな礎となった。
26年ぶりの掛川西のアルプススタンドは、鮮やかな青で染まっていた。
自らも憧れた景色の後押しもあって、チームは初戦の日本航空戦で、夏は60年ぶりの勝利を手にした。「ベスト8」という目標を掲げていただけに、大石は「もっと勝って、次のステージに進みたかった」と悔しさをにじませつつも、監督として伝統校を率いて甲子園に出られたことに声を詰まらせる。