オリンピックへの道BACK NUMBER
無敵と思われたレスリング・須崎優衣もできなかった「五輪連覇」…今こそ再評価したい、怪物フェルプス、ルイスに並ぶ伊調馨「4連覇」の偉業
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2024/08/09 11:00
女子選手史上初の4連覇を達成した伊調馨。パリ五輪解説者として「小学時代は卓球部」「男に生まれてレスリングやってみたかった」など意外な発言で話題
レスリング女子63kg級で2004年アテネから2012年ロンドンまで、58kg級で2016年リオデジャネイロ、と4連覇を果たした。女子では史上初のことだった。
その足跡をあらためてたどると、4連覇にあっていちばんの壁は、本人のレスリングへのモチベーションがいったんは途切れたことだったといえる。
北京が最後だと考えていた
2008年北京五輪で2連覇した伊調は、試合翌日の記者会見でこう語った。
「自分では、この大会が最後なんじゃないかと思います」
と、引退の意思を表明。当時まだ24歳、当然3連覇を目指すものと考えていたコーチや日本レスリング協会関係者らが動揺する事態になった。
ただ本人には、続けていくモチベーションが感じられなかった。実際、北京五輪後は休養に入り留学する。
意欲を取り戻したのは、帰国後、指導者と練習拠点を代えて新しい世界に出会ったからだった。男子レスリングである。今まで知らなかった技術の理論を知り、学ぶべきことがたくさん残っていると気づいた。まだ極めていないことが新たなモチベーションとなった。
大会への向き合い方も変わった。それまでは、自身の試合を研究・対策されることを恐れ、出場機会を増やすことには慎重だったが、学んだことを試せる場として大会に出ることに積極的になった。ある意味、大会に出ることが楽しくなった、という。2012年ロンドン五輪での圧勝劇はその結果だった。