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「『これぐらいでも勝てるんや』と思ってしまった」あの田中希実を破って全国制覇…“天才少女ランナー”はなぜ突然、陸上界から姿を消した? 

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和田悟志

和田悟志Satoshi Wada

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photograph by(L)AFLO、(R)Satoshi Wada

posted2024/08/06 11:02

「『これぐらいでも勝てるんや』と思ってしまった」あの田中希実を破って全国制覇…“天才少女ランナー”はなぜ突然、陸上界から姿を消した?<Number Web> photograph by (L)AFLO、(R)Satoshi Wada

中高時代には全国制覇を経験し将来を嘱望された高橋ひなだが、大学で長いスランプに。一度は陸上の世界からドロップアウトしたという

「本屋でも、陸マガ(陸上競技マガジン)や月陸(月刊陸上競技)が置いてある棚のところは避けて通っていました。でも、スポーツ学科に通っている以上は、どうしても走っている人を見てしまう。テレビとかでも、怖いもの見たさというか、結果が気になって見ちゃうんですよね。

 それで、悔しいなって思ったり。そもそも、悔しいって思う価値が自分にあるのかどうか、そんなことを考えながら見ていました。スポ根漫画でよくあるような設定をそのまま辿っているみたいで、ちょっと恥ずかしいですが(笑)」

 特に自分の気持ちに向き合うことになったのは、就職活動の際に自己分析を行った時だ。陸上競技への思いを拭いきれていないことに改めて気付かされたという。

「陸上が嫌になって辞めてしまったけど、自分の中では“できなかった”記憶として強烈に頭に焼き付いています。これからの人生、ずっとこの感情に引っ張られながら生きるのはつらいなと思いました。

 でも、『また走りたい』って思っても、今の自分の半端な覚悟で再開するのは良くないと思っていました。陸上をやるには、いろんな人を巻き込むじゃないですか。その覚悟は当時の自分にはまだなかった。もしかしたら、それは“逃げ”だったのかもしれませんが……」

 競技に復帰したいという考えも頭の片隅にあったが、その決断を下す覚悟は備わっていなかった。高橋が走り出すまでには、もう少し時間が必要だった。

裏方で競技にかかわると…復帰への想い

 高橋は、広告やホテル業界など、エンターテインメントに関わる業種を志望していたが、結局、横田が代表を務めるTWOLAPSに就職することに決めた。

 今度は裏方として陸上競技にかかわることになった。

 まだインターン生だった時にTWOLAPSが主催する大会に田中と後藤が出場したことがあった。選手と大会運営という新たな関係になったが、3人で記念写真を撮った。

 そんな日々を送るうちに、高橋の中で「再び走りたい」という気持ちがじわじわと大きくなっていった。

「横田さんもそういう雰囲気を察してくれたんでしょうね。話している中で『どう思っているの?』って聞かれたんです。それで『もう1回頑張りたいなっていう気持ちはあります』と答えました」

 入社して1年足らずだったが、そんな会話が、高橋が競技者として現役復帰するきっかけになった。

<次回へつづく>

#3に続く
田中希実を破って全国制覇→陸上界からドロップアウト…それでも“元・天才少女”高橋ひな(26歳)が現役復帰を決めたワケ「最大限の努力はしたと…」

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