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「オマエは決勝には行けないよ」「チームを解散しよう」“日本最速女王”田中希実(24歳)と父に訪れた危機…親子コーチゆえの難しさとは?

posted2024/08/02 06:01

 
「オマエは決勝には行けないよ」「チームを解散しよう」“日本最速女王”田中希実(24歳)と父に訪れた危機…親子コーチゆえの難しさとは?<Number Web> photograph by AFLO

ブダペスト世界陸上では得意の1500mで準決勝落ちを喫した田中希実。コーチである父・健智さんとも不協和音が起こった

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田中健智

田中健智Kenji Tanaka

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 ついに開幕を迎えたパリオリンピック。陸上界からは女子中長距離で目覚ましい活躍を見せる24歳の田中希実選手に注目が集まる。東京オリンピックでは1500mで日本史上初の入賞を果たすなど群を抜く実績を誇るが、そのコーチを務めるのが実父の健智さんだ。娘と二人三脚で走り続けてきた健智さんの著書『共闘<セオリーを覆す父と娘のコーチング論>』(ベースボール・マガジン社)に描かれた、親子の知られざる苦悩とは。《全3回の第2回/つづきを読む》
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 2023年8月19日、ブダペスト世界選手権が幕を開けたが、希実はどこか気持ちの置きどころが定まっていない様子だった。

 私から見れば、彼女が不安になる意味が分からなかった。直前に長野・湯の丸で行った最終調整では、たむじょーと質の高い練習が積めていて、本番に向けて状態は申し分なかったはずだった。ところが、パリの事前合宿に入ってから、彼女の中で前年のオレゴンや春先のトラウマがよみがえり、情緒が不安定になってしまったようだ。

不安を抱いたままだったブダペスト世界陸上

 彼女の悪いクセは、練習が本番に直結していて、「この練習が完璧にこなせないと、レースでも上手く走れるはずがない」と思い込んでしまうことだ。本来なら、仮にタイムが伴わなかったとしても、一週間の流れや環境の違いを加味して「調子」を判断してほしいところだが、彼女はタイムという尺度だけで自らの調子の善し悪しを決めつけてしまう。湯の丸までは自信を持っていたはずが、パリでの合宿中は、本人が思い描いた練習がこなせない不安のほうが勝ってしまっていた。

 彼女の感覚とタイムをすり合わせるために、事前合宿中にはあえてタイムを読まずに、1000m×4本を本人の感覚だけで走らせてみたのだが、私が求めていたタイムとほぼ遜色のない「誤差」の範囲で走り切ることができた。しかし、その誤差を前向きに納得できるか、はたまた後ろ向きに捉えるのかで気持ちの持ちようは大きく変わってしまう。当時の彼女は、ちょっとした“ズレ”も許すことができず、後ろ向きに捉えてしまったのだ。私は「一人でこのタイムを出せたのなら調子は問題ないよ」と諭したのだが……。身体の仕上がりは何ら問題なかったはずが、彼女は自ら自分の調子を崩してしまい、不安を抱いたままブダペストに入っていた。

【次ページ】 世陸の舞台で起きたディスカッションのズレ

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