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《女子ボクシング性別騒動》「彼女の態度は恥」棄権→挨拶拒否→号泣イタリア人もケリフも…誹謗中傷と「Webでの識者コメント」にえぐられる心
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAnadolu/Getty Images
posted2024/08/05 11:00
女子ボクシング、アルジェリア代表のイマネ・ケリフ。性別と競技性について、考えさせられる事象が起きている
棄権負けを宣告された後、歩み寄ったケリフを一瞥もせず、挨拶すら拒否した彼女の姿に眉をひそめた者もいた。
棄権を伝えた各メディアの記事には「彼女の取った態度は恥だ。代表になるべきではなかった」、「棄権するにしても対戦相手に挨拶すらしないのはリスペクトに欠ける」とのコメントがつき、ジェンダー問題とスポーツマンシップの間に一線を引くという見方がうかがえる。
2発鼻にもらって…本当に痛かった
カリーニ自身は棄権後「これは私にとって敗戦ではありません」とイタリアメディアに語った。
「私は何かに裁きを下す何者でもないし、私の対戦相手に含むところも何もありません。試合の前にいろいろありましたが、それと棄権を決めたこととは関係ありません。リングに上がったとき、戦えると思いました。勝ちたかった。(ゴングの後)2発鼻にもらって息ができなくなりました。本当に痛かった。コーナーに戻って、冷静に勇気をもって『もういいです』と告げました」
だが、実際にはケリフとの対戦が決まって以来、カリーニはナーバスになっていたと伊紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は伝えている。
過去にケリフと対戦経験のある選手による「彼女のパンチは本当に効く。スパーリング相手の男性ボクサーより強い」というコメントがWeb上で流布され、カリーニのメンタルに影響を与えた可能性は否定できない。
イタリア代表チームの監督にあたるTD(テクニカル・ディレクター)、エマヌエレ・レンツィーニによれば「数日前から彼女にはメールやSNSを通じて、身の安全のために試合を棄権してほしいと願うメッセージが何百通も寄せられていた」という。ただし、イタリア陣営はケリフとの対戦を忌避していたわけではない。
「彼女のことは知っていた。勝てない相手とは考えていなかった」(レンツィーニ)
トランスジェンダーではない、という事実
ケリフは東京五輪にも出場し、5位に終わっている。彼女を破って、女子66kg級の金メダルを獲得したのはケリーアン・ハリントン(アイルランド)だ。
誤解ないよう明記するが、イマネ・ケリフは性転換した“トランスジェンダー”ではない。