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選手生命の危機を救った“絶対に否定しない夫”と“最強レジェンド”「3度目の五輪はスゴい」柔道・高市未来が逃したメダルの代わりに得たもの
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byTetsuya Higashikawa/JMPA
posted2024/08/01 06:00
リオ、東京に続き3度目の五輪出場となった高市未来(30歳)。悲願のメダルはまたしても叶わなかった
リオ、東京と夢の大舞台で味わった2度の挫折。
直後の失意や再び茨の道を歩む覚悟、葛藤は、想像を絶するもので、それは恐らく本人にしか分からない。
「精神力があるわけでもメンタルが強いわけでもないんですよ」
困難を乗り越え、3度目の五輪にたどり着けたのは夫や家族、周囲の支えがあったからこそ。なぜ彼女はそこまでして五輪を目指したのか――。
「やっぱり(五輪で)負けているから……でしょうね。一度も勝ててないので。一度も力を出し切れていない、そういう心残りがあるんです。だからこそ“まだできるんじゃないか”と積み重ねられた。ただ、そう思いながらも“やっぱりダメかもしれない”と思うこともあって。リオからの8年間はその繰り返し。元気な自分と弱い自分が常に戦っていました」
とにかく長い間、畳の上で戦えるように――そんな思いで臨んだパリ五輪。
喉から手が出るほど欲しかったメダルにはまたも届かなかった。神様は再び彼女に試練を与えた。
パリの地で痛感した“残酷”な勝負の世界
たった一度でも五輪代表の座を掴むのは大変なことだ。手が届くところまで近づいてもものにできないという人もたくさんいる。技術的、肉体的にはもちろん、戦いに挑むメンタルを維持し続けることが何より難しく、常にプレッシャーにさらされる。五輪が終われば次の五輪に向けて、すぐに新たな戦いはスタートする。
彼女は、五輪で屈辱を味わい、敗戦に打ちひしがれながらも、再びその道を歩むことを自ら選んだ。自身は「メンタルは弱い」と謙遜していたが、過酷な戦いに3度も挑み、代表の座を掴んでいった姿からは、現実から目を反らさず、真摯に向き合う強さのようなものを感じた。
ただ、それほどまでに強く願っても、万全な準備をして臨んでも、必ずしもメダルにつながるとは限らない。残酷だが、それが勝負の世界でもある。その厳しさを彼女自身もあらためて痛感しているような気がする。
畳を降りた後、「本当にメダルが欲しかった」と悔しさをあらわに不甲斐なさも嘆いたが、「だからといって自分自身のことをダメだとは思わない」と涙を見せながらも気丈に振る舞い、胸を張った。
妻を支え続けてきた夫・賢悟さんは労い、彼女の挑戦に賛辞を送った。
「彼女にとってオリンピックはつらい思い出というか、そういったイメージのあるものだったと思います。その間には怪我もあって、そして代表争いもあって、苦しいことを乗り越えて3大会連続出場を掴みとった。それは本当に尊敬すべき部分。なによりも、僕は彼女の柔道に真摯に向き合う姿、妥協なく取り組んでる姿を見てきた。そこはほんとに頭がさがりますね」
メダル獲得とはならなかったが、2度の経験が高市の「その後」につががったように、パリの経験も必ず彼女の人生の糧となるはずだ。