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選手生命の危機を救った“絶対に否定しない夫”と“最強レジェンド”「3度目の五輪はスゴい」柔道・高市未来が逃したメダルの代わりに得たもの 

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石井宏美

石井宏美Hiromi Ishii

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photograph byTetsuya Higashikawa/JMPA

posted2024/08/01 06:00

選手生命の危機を救った“絶対に否定しない夫”と“最強レジェンド”「3度目の五輪はスゴい」柔道・高市未来が逃したメダルの代わりに得たもの<Number Web> photograph by Tetsuya Higashikawa/JMPA

リオ、東京に続き3度目の五輪出場となった高市未来(30歳)。悲願のメダルはまたしても叶わなかった

 日本柔道がメダルラッシュに沸いたリオ、東京五輪では、表彰台に立てるだけの実力を持ちながらまさかの結末に涙した。

 リオ五輪は3位決定戦で敗れ、5位に終わった。メダルを手にする仲間たちを横目に、「帰りは同じ飛行機に乗りたくなかった。一緒にいることが恥ずかしくて」と不甲斐なさを嘆いた。リベンジを誓って挑んだ2度目の大舞台では、相手に一瞬の隙を狙われ畳に沈んだ。日本女子柔道陣は63kg級以外の階級すべてでメダルを獲得。高市は自責の念にかられた。

「惨めだったし、恥ずかしかったですね。日本代表ということさえも憚られるくらい。同じ階級にはほかにも代表候補の選手がたくさんいたのに……。私は代表にふさわしくない、オリンピックや世界選手権の代表として戦うことは向いていないんじゃないかと考えるほど、思い詰めていました」

 一時は引退も視野に入れたが、悩んだ末に現役を続行することを決断。しかし、復帰に向けた矢先の2022年2月には左膝の前十字靭帯を断裂。長期離脱を余儀なくされるなど、選手生命の危機にも直面した。

「またかという感じでしたね。私が何をしたのって思いましたし、世界選手権やパリ五輪から逆算しても、これは無理だな、終わったなとその瞬間は思いました」

2022年秋に結婚、夫・賢悟さんの存在

 それでも不屈の精神で怪我を乗り越え、競技人生を続けてきた。揺れ動く気持ちを支えたのは、2022年秋に結婚した夫・賢悟さんの存在が大きい。

 賢悟さんもかつては男子66kg級で日本のトップ選手として活躍、五輪出場を目指していた。現在は台湾代表のコーチも務めるが、同じ柔道家だからこそ妻の気持ちが痛いほど理解できる。

 高市が涙に明け暮れたときは、あえて何も言葉はかけず、ただ、彼女に寄り添っていた。

「彼は絶対に否定しないんですよ。靭帯が断裂したときも、『もう十分に頑張ってるよ』とか『頑張りすぎなんだから少し休んだら?』と言葉をかけてくれて。それで心の余裕ができて、自分を肯定できるようになったというか。彼の方が私よりも私のことを理解してくれているかもしれませんね」

【次ページ】 「お前、諦めちゃダメだぞ」大野将平の言葉

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