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選手生命の危機を救った“絶対に否定しない夫”と“最強レジェンド”「3度目の五輪はスゴい」柔道・高市未来が逃したメダルの代わりに得たもの
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byTetsuya Higashikawa/JMPA
posted2024/08/01 06:00
リオ、東京に続き3度目の五輪出場となった高市未来(30歳)。悲願のメダルはまたしても叶わなかった
そしてもう一人、高市を“救った”存在がいる。リオ、東京と五輪連覇した大野将平だ。
「お前、諦めちゃダメだぞ」
2023年の世界選手権で早期敗退し、疑心暗鬼になっていた高市の心を見透かした大野は、「練習しに来い!」と高市を練習に誘ったことがあった。
「今、ここで何かを変えないと終わるなと思っていた時期でした。かといって何を変えたらいいかもわからない。それで『是非行かせてください!』とチームメイトの連(珍羚)さんと一緒に天理に行って、男子大学生と練習をさせてもらったんです」
大学生とはいえ、男子と女子のレベルの差は大きく、体格や力も異なる。
「やられてもいいから、それが当たり前だと思ってやるな」と大野にアドバイスをもらいながら、熱のこもった乱取りを何度も繰り返した。
そこで大野にかけられた言葉が印象に残っている。
「3度目のオリンピックが決まったとしても勝てない可能性もある。でも、お前が諦めずに続けていたら、いつか花が咲くときが、成功するときが必ず来るからって。だから諦めずに戦え、と。正直、その言葉で気持ちが楽になったんですよ。それまでは現役生活だけがすべてだと考えていました。でも、それだけじゃないんだなと思えるようになったというか」
現役続行を後押しした大野の言葉
大野とは高市が初めて代表入りした2014年からの付き合いだ。
「私も言われっぱなしではなく抗うタイプなので、大野さんも言いやすかったのかもしれません。以来、よく話しかけてくれたり、気にかけてくれるようになって」
東京五輪後、現役を退こうかどうか迷っていたときかけられた一言も、記憶に鮮明に残っている。
「団体戦が終わった日でしたね。表彰式に向かうときに大野さんが『今、つらいだろう』って。団体戦にも出てないのにメダルをいただけて、申し訳ないというか、居心地が悪いというか。まさに絶望の真っ只中で、自信も失っているし、未来に希望も見いだせない状態。そんなときに『お前、絶対にやめるなよ』と言ってくれたんです。当時はまだ現役を続けようとは思えなかったけれど、その言葉で可能性を感じさせてもらえたというか。金メダリストの言葉だからというわけではなく、率直に気持ちを伝えてくれたことがありがたかったし、大野さんの言葉には重みがありましたね」
パリ五輪代表内定が決まったときには、「少し皮肉っぽいことを言いながらも、『3度目の出場はすごい』と褒めてくれた」という。