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金メダル前日、橋本大輝(22歳)はミーティングで涙を浮かべた「萱和磨でも谷川航でもなく…」体操エースを奮い立たせた“2人の初出場選手”
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2024/07/30 18:00
団体金メダルが確定し、感極まった橋本大輝(22歳)
鉄棒の1番手で出た杉野は豪快な離れ技を連発して会場を沸かせた。2番手の岡は持ち前の美しい体操で堅実に点を稼いだ。得点は杉野が14.566。岡も14.433。2人とも高得点を出していた。
「杉野選手も岡選手も重圧を感じながら戦っていく姿を見て、なんで初代表の2人はこんなに強いんだ。やべえな。そう思いました。2人を見たら“俺はみんなのために戦うことを決めたんだ。だから、弱い気持ちは捨てよう”。そう思って演技台に登る覚悟が決まりました」
着地の瞬間にスタンディングオベーション
橋本は鉄棒に飛びつくと、予選でも安定していたF難度の「リューキン」やG難度の「カッシーナ」、E難度の「コールマン」を予定通りに行いつつ、団体総合予選で不安定だった「アドラー1回ひねり」を抜き、着地に備えて脚の力を残すために「開脚トカチェフ」も抜いて、確実に演技。技の自在な出し入れで14.566を出して、金メダルをほぼ確実にした。
「みんなの思いを背負って戦えたこの瞬間は幸せでした」
そんな感情が湧く演技だった。着地が決まった時、観客席でスタンディングオベーションしている人の姿が見えたのもうれしかった。
中国の最終演技者である張博恒は14.733と意地を見せたが、最終スコアは日本259.594点に対して中国は259.062点。0.532点差で日本は2016年リオデジャネイロ五輪以来となる金メダルに輝いた。
涙を浮かべた「決勝前日のミーティング」
それにしても苦しい道のりだった。日本は1種目目のゆかで中国を0.734点上回る好発進を見せたが、2種目目のあん馬で橋本が痛恨の落下。
「落ちた瞬間は自分のせいでまた金を逃したかもしれないと思った」と言う。
中国が種目別のスペシャリストを投入しているつり輪と平行棒ではさらに点差が開いた。残り1種目で3点差以上であれば逆転は不可能と思っても不思議のない状況だ。
けれども、橋本は諦めていなかった。チームの全員が諦めていなかった。
苦境でも最後まで可能性を信じる力を持てたのは、決勝前日のミーティングで金メダルへの思いを今ひとたびチームメートみんなで確認し合ったのが大きかった。橋本はミーティングで涙ながらに最後まで全力でやり抜くと誓い、決勝に挑んでいた。