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金メダル前日、橋本大輝(22歳)はミーティングで涙を浮かべた「萱和磨でも谷川航でもなく…」体操エースを奮い立たせた“2人の初出場選手”
posted2024/07/30 18:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Naoya Sanuki/JMPA
それは望みを叶えるための魔法だった。パリ五輪の体操男子団体決勝。最終種目の鉄棒で日本の最終演技者として出番を待っていた橋本大輝は、キャプテンの萱和磨にこう言った。
「背中を叩いてください」
萱は橋本のゼッケンに手を添え、ポンッと叩いて気合を注入した。杉野正尭、岡慎之助、谷川航も順番に橋本の背中を叩いていった。
「みんなの思いを背負って戦いたかった。“一人ずつ、ちょっと弱めに背中を叩いてください。でも思いだけは強めに”と言ってお願いしました」
5種目までを終えた時点で、日本は首位の中国に3.267点差をつけられ、金メダルは絶望的だった。むしろ、0.601点差で3位にいた米国に抜かれる危険性すらあり、「表彰台死守」が現実的なターゲットと言える状況だった。
とにかく、中国を抜くことは、ほぼ不可能と言えた。だが、日本の5人は誰一人としてあきらめていなかった。
橋本を奮い立たせた“2人の初出場選手”
すると、鉄棒がさほど得意ではない中国は1番手の肖若謄が着地で大きく前へ移動してしまい、13.433の低得点。何やら不穏な空気が漂いかけたところで登場した2番手の蘇煒徳は、離れ技の伸身トカチェフで落下。さらには演技再開後にコールマンでも落下した。蘇煒徳は昨年の世界選手権でも同じ技で落下していた。
2度の落下というまさかの展開で形勢は一気に日本が有利な状況へと逆転し、橋本は高難度の演技構成に挑む必要がなくなった。とはいえ、鉄棒は落下がつきもの。団体総合予選では着地で両手をマットについてしまうミスも犯している。
ともすれば不安がよぎるような状況で、橋本を奮い立たせたのは初出場の2人だった。