フランスの観衆も総立ちで拍手を…

　その弟分が準決勝で延長線の末、ハンガリーのティボル・アンドラーシュフィを破る頃には、ドーム型の屋根から日光が差し込まなくなっていた。夜に入り、ライトアップされ闘技場へと変貌したグラン・パレ。決勝に駒を進めた日本人が6-3と突き放し、3点差を守ろうとする。決闘場にフランス国歌が響く。

「フランス国歌？　聞こえていませんでした。（日本で）3人目の僕が負けるわけにはいかない。先にリードして点差を守らなきゃという思いが強かったです。ボレルに対してはパワーも思ったより対抗できたな、と。守っていたのもあって。守っていたほうが力的に有利。叩く力というのは確かに強かった。でも全然そこでへこたれず、やれました」

197cmのボレルに対して、173cmの加納はパワーでも引けを取らなかった　©JMPA

　8-5。アレクサンドルコーチのほうを見て、何度も首を縦に振る。9-5。山田がたどりついたスコアだ。ここから追い上げられ、そして最後にひっくり返された。しかし加納は着実に得点を積み重ねていく。10-6、11-6、12-6、12-7、13-8。14点目を先に得るとフランス人記者は首を振る。場内の声援がしぼんでいく。先輩が届かなかったあと1点。何を考えていたのか？

「絶対勝てるという自信があった。勝った瞬間、手を挙げると決めていました」

決着の瞬間、観客席に向けて拳を突き上げる加納　©JMPA

　突き上げた両拳と同じように口角を上げて大きな笑み。その笑みは先輩たちのいる観客席へと向けられた。敵地パリの観衆も総立ち。脱帽したと拍手を送る。それでも金メダリストは「個人戦はみんなで喜べないので、孤独感がある」と最大の喜びではないと語る。

「個人戦が終わった瞬間から団体戦のことを考えている」

　1度あることは2度ある。ことわざではなく、加納の思いだ。敗戦後、それぞれ「団体戦ではフランスにやり返す」とリベンジを誓った先輩ふたり。今度は「みんな」と黄金色の頂を目指す。