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藤井聡太七冠“おやつ手筋”と棋士お菓子伝説「ぴよりん」は今も名古屋駅で行列…加藤一二三は「板チョコ6枚、カルピスをジャーにいっぱい」
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2024/07/22 06:00
王位戦第2局の藤井聡太七冠と、2日目午後のおやつに注文したテリーヌ・ド・ショコラ、アイスティー
新聞の観戦記から引用する。《メロン、ケーキ、ホットミルク3杯》《カマンベールチーズ、フルーツ、トマトジュース》《板チョコ6枚、カルピスをジャーにいっぱい》。
棋士は対局中に盤の前に座って動かないが、意外と腹が減るものである。頭脳労働ではエネルギー(ブドウ糖)を多大に消費すると、医学的にも実証されている。とはいえ、加藤の健啖ぶりには驚くばかりだ。
私こと田丸は現役時代の2015年に棋王戦で加藤九段と対戦したとき、そんな様子を目の当たりにした。
加藤はコンビニで買ってきたカマンベールチーズ、みかんゼリー、そば茶、コーラなどを、昼食休憩後からずっと口に入れていた。手番でないときはクリスチャンとして聖書に目を通した。田丸は、加藤の盤上の迫力と盤外の奔放さに圧倒されて敗れた。
米長邦雄のおやつへのこだわりとは
米長邦雄永世棋聖もタイトル戦で注文した「おやつ」に、こだわりを持っていた。新聞の観戦記から引用する。
《トウモロコシ、四つ葉の牛乳を2本》
《バターをいっぱいつけたジャガイモ》
《いちごで作った饅頭》
《りんごの皮をむいて真っ二つに割り、芯を取って5ミリの厚さに切って》
《20時に紅茶、21時にコーヒー》
米長は北海道の名産品、対局場に先乗りして調べた食品、独自のりんごの食べ方、夜戦で集中力を保つためのカフェイン飲料など、その時々に応じて注文した。ちなみに「オランウータン」のあだ名のように、みかんは二つに割ってぱくっと食べた。
第2局…おやつパワーで勝利を得たのは渡辺だった
さて王位戦第2局は7月17日、18日に北海道函館市「湯元 啄木亭」で行われた。
藤井は函館を訪れたのは初めてだという。対局での昼食は、海の幸が盛りだくさんの重箱膳、キンキ一番だしラーメンと、北の大地の美食を満喫した。「おやつ」は飲み物以外に、パイ饅頭、テリーヌ・ド・ショコラ(チョコレートケーキ)、チーズ洋菓子を注文した。
対局についても振り返る。
先手番は渡辺。戦型は相掛かりで、第1局の指し直し局と似たような展開となった。序盤から中盤にかけて、藤井は65分、38分、48分、渡辺は57分、35分、44分と、ともに長考が相次いだ。中盤の要所で局面が大きく動いた。渡辺は飛車を捨てて攻め込み、7筋の馬を敵陣に利かせた。そして、持ち駒の角桂を生かして一気に寄せ切った。
渡辺九段は97手で藤井王位に勝った。終局時刻は17時40分。王位戦は1勝1敗の五分となった。第3局は7月30日、31日に徳島県徳島市「渭水苑」で行われる。
渡辺は対局の数日前に函館を訪れ、趣味の競馬や地元の食事を楽しんだという。それでリフレッシュできたようだ。対局で「おやつ」は飲み物以外に、パイ饅頭、バタークリームケーキ、チーズ洋菓子、テリーヌ・ド・ショコラを注文した。盤上で力強く戦い、第1局の逆転負けを払拭する見事な内容だった。