酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「キャンプで僕が業務用トラックを」四国各県バス遠征、帰宅は深夜1時…なぜ慶応高校前監督は“独立L球団代表”になったか「今の使命です」
posted2024/07/13 11:02
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Kou Hiroo
四国、香川の地で再び「エンジョイベースボール」
慶応高校前監督の上田誠氏には、昨秋と今年5月に話を聞いたが、インタビューしたのはいずれも四国だった。
上田は慶応高校監督を退任後、慶応義塾大学のコーチを5年にわたって務めたのち、昨年末に独立リーグ、四国アイランドリーグplusの「香川オリーブガイナーズ」の球団代表に就任した。
きっかけは上田の慶応高校野球部の教え子で、IT企業のビジネスマン、起業家として活躍した福山敦士氏が、香川オリーブガイナーズをM&Aしたことだ。社長に就任した福山はスポンサーに頼った従来の独立リーグ球団のビジネスモデルを脱却し、球団をベースとした人材育成や経営コンサルティングの事業を立ち上げようとしている。昨年9月にはビジネススキルを教える「ガイナーズ大学」というオンライン講座を開設したが、その一方で、野球の現場を恩師の上田に託そうと考えたのだ。
香川オリーブガイナーズの「取締役球団代表」になった上田に託された役割は、多岐にわたる。他球団との連絡調整、使用する球場、グランドチャンピオンシップ開催地を決める会議に出席したり、選手の獲得や自由契約にする際の面接などが仕事で「当初は月に3分の1くらい来てくれないか」という話だったという。しかし……。
「投手コーチだった元DeNAの岡本克道さんが今季から監督に昇格したんですが、内野守備コーチが退団してしまった。さらに、香川県に関係のない経営陣になってスポンサーの獲得が厳しくなっています。ビジネスを再構築する必要があって、社長の福山は経営面に専念しなければならないから、僕に現場の面倒をみてくれ、ということですね」
僕が業務用トラックを運転するような状態で
香川オリーブガイナーズは元広島の西田真二氏が長く監督を務め、リーグ優勝7回。現ソフトバンクの又吉克樹をはじめ、NPBに人材を輩出するなど、自他ともに認める四国最強のチームだったが、近年は低迷していた。
筆者は10年以上前から取材をしているが、経営から手を引いた地元企業の経営者が、引き続き球場で声援を送るなど、地元愛の強い土地柄である。香川県に縁もゆかりもない上田には、相当慣れない環境に思える。