酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「キャンプで僕が業務用トラックを」四国各県バス遠征、帰宅は深夜1時…なぜ慶応高校前監督は“独立L球団代表”になったか「今の使命です」
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2024/07/13 11:02
慶応義塾高校の前監督で、独立リーグ香川で奮闘する上田誠氏
「まずリクルートが全くやり切れていなかった。僕は関東の大学をだいぶ回ったのですが、2年生まではリーグ戦で投げていたけど故障しちゃった、でも野球を続けたい、といった選手がいるので、彼らを連れてきたい。そして高校生は地元から取って、活躍すれば四国の皆さんが喜んでもらえるようにしたい。大学生は2年、高校生は3~4年でドラフトにかかるように勝負させると、そういうふうになりたいですね」
四国アイランドリーグPlusはソフトバンクの三軍、四軍とも試合をしている。
その中で「意外にゲームができていない。うちのような独立リーグや大学生とやっているから、二軍とはかなり差があるように思いますね。彼らとは互角の試合ができているけど、それだけじゃダメですね」という気付きもあるが、チーム育成の目標としては、どういうことを考えているか。
「うちの野手は、みんなプロに行きたいと言います。でも、それは今すぐには難しいだろうと思います」
こう話す上田が目指すのは、選手が持っている個々の能力を最大限に引き上げることだ。
「彼らの野球はまだ大雑把なんです。打球がどう飛んだらどこに入るというフォーメーションや、走塁ができていない。何となく投げて打って、という野球なんです。僕は、高校野球のようなスモールベースボールをやろう、と言っています。そういう野球も経験した方がいいんじゃないかなと思うんです。そうしたことも含め、僕が慶応義塾大学で、大久保秀昭監督や堀井哲也監督から学んだ野球も伝えていこうと思っています」
バス移動→深夜1時帰宅ということも珍しくないが
シーズンが開幕して、上田は選手と共に各地を転戦するようになった。独立リーグの移動は原則としてバスだ。上田はこの過酷な移動にも付き合っている。さらに遠征しても宿泊はしない。四国の他球団の本拠地でのナイターの後は、バスで高松に帰って来る。深夜1時に帰宅という過酷なスケジュールも珍しくない。
しかし背番号「87」をつけて、ベンチから選手に指示を出す上田は、生き生きとして、本当に楽しそうだ。
監督が投手出身のため、野手陣の采配は上田が取り仕切っている。選手を鼓舞したかと思えば、打者によって外野の守備位置の移動を大きな身振りで指示し、投手ごとの攻略法を選手にアドバイスするなど幅広く動き回っている。
四国アイランドリーグplusは昨年、徳島から6人がドラフト指名されたこともあり、有望な選手が自ら売り込んで入団するなど、レベルが非常に高くなっている。
前期、香川は最下位(4位)に沈んだ。このリーグで勝ち抜くのは厳しいところだが――上田は四国、香川の地で、再び「エンジョイベースボール」を始めつつある。
「有難いのは、彼らがものすごく練習をすることですね。ひたむきで、まじめです。彼らの成長を見届けるのが、今の僕の使命ですね」