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“天才少女”と呼ばれた水泳界の逸材「玄関を開けたらカメラが…」高校1年生で五輪出場、今井月(23歳)が注目の裏で抱いていた“責任感”
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTsutomu Kishimoto/PICSPORT
posted2024/07/22 11:01
若くして注目を浴び、日本代表としてリオ五輪に出場した競泳の今井月(現在23歳)
一緒に登校する友達がテレビカメラに映っていいのかどうか、今井の父が友達の親に相談に行くなど対応にも追われた。
練習に行けば、プールにもカメラはあった。いわゆる密着取材を受けた。
「嫌でしたね」
と今井は言う。
「学校初日だったので、『やばい奴』って思われるじゃないですか。やっぱり恥ずかしかったですし、自分の中ではすごいことしちゃったのかもと思いながらも、そんなすごい選手じゃないのに、こんなにテレビの方が来るなんて……と葛藤がありました」
注目度の高まりは、競技での意識にも変化をもたらした。
「中学1年生で日本選手権3番だったので、3番以上にならなきゃ、という思いはずっとありました。中学2年生のときの日本選手権は、タイムは上がったんですけれど5番だったので、自分の中では“恥ずかしい”みたいな感覚がありました。日本選手権でいつか自分が代表に入らなきゃ、と常に意識をしていました」
五輪出場前から有名CMにも抜擢
中学2年、3年と日本代表には手が届かなかったが、注目や期待が小さくなることはなかった。むしろ大きくなっていった。それを示すのは中学3年生になってからの出来事だ。
「12月ぐらいにコカ・コーラのサポートの話をいただきました。中学生でコカ・コーラがつくのも異例でしたし、水泳界でCMに出るのもあまり聞いたことがありませんでした」
コカ・コーラと競泳といえば、2005年から北島康介が同社に所属し、CMにも出演していた。いわば北島の後継者として選ばれたことになる。
「やっぱり北島さんだったので、自分も結果を出さなきゃな、とすごく思いましたね」
リオデジャネイロ五輪を前に、味の素のCMにも起用された。代表選考会である日本選手権を控え、まだ代表には内定していない状態での抜擢。「五輪に出場するであろう」という周囲の期待が込められていたことは想像に難くない。それは今井も察知していたことだった。
「15歳なりにすごいプレッシャーを感じてはいましたね」
「水泳は楽しいという感じではなかった」
CM撮影時、プールには50~60名ほどのスタッフが集合していた。練習する今井を水中、水上から撮影し、練習後には1時間ほどのインタビューを実施。選考会を2週間後に控え、通常でも重圧のかかる時期だ。逃げたくなっても不思議はない。それでも今井は淡々とやるべきことをこなしていった。
「逃げようとはまったく思っていなかったです。責任感は強い方かもしれないですね。責任を負わされたら、返さないと、と思うタイプなのかもしれません」