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「決勝に行くぞ」石川祐希はなぜ“ギアを上げた”? 心配になるほど吠えた主将が植え付けたかった頂点のイメージ〈男子バレー五輪メダルの序章〉
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byVolleyball World
posted2024/07/02 11:09
VNLではベストアウトサイドヒッターに選出された石川祐希(28歳)。「ユーキイシカワ」がSNSでトレンド入りした
ブラン監督が当初掲げていたミッションはクリアしたが、選手たちは目標達成とは思っていなかった。
ファイナルラウンド準々決勝のカナダ戦から見せた石川のギアチェンジは、改めて「ここで終わりじゃないぞ!」「昨年の3位を上回り、決勝に行くぞ!」と意思表示しているかのようだった。
カナダに勝てば、準決勝の相手はどちらかといえば相性のいいスロベニアとアルゼンチンの勝者。決勝進出の大きなチャンスだ。そのチャンスをものにして欲しいという期待と同時に、五輪前の今、そんなに力を出し尽くして大丈夫かと、正直心配にもなった。
だが石川はVNLで本気で頂点を目指していた。もちろんアスリートが勝利を目指すのは本能だが、VNLで決勝に進むことが、最終目標であるパリ五輪のために必要だと捉えていたからだ。
何度も口にした「イメージ」の意味
今年5月の記者会見で、石川は何度も“イメージ”という言葉を口にしていた。
「なんでも初めての経験って、そんなにうまく行くものじゃないなと学んできているし、逆に1回経験していれば、どうにかなる。イメージが少しでもできていれば、近づけるという感覚があるんです。
昨年のVNLでメダルを獲る戦いをして、実際に獲ったので、そこのイメージはできている。そこは東京五輪と全然違うところ。パリ五輪では、メダルは『何がなんでも絶対に』と思っています。ただメダルの色を聞かれると、“これ”というのは……。もちろん金は目指していきますけど、まだ正直イメージがない。僕たちは決勝に行ったことがないので。
だからパリ五輪前に、VNLでその景色を見るということが一つの目標になっています。決勝に行くこと。そこを目指していけば、パリ五輪を迎えた時に、『メダルを獲る』プラス『色はこれです』と。(今も)金を目指しているんですけど、プラス、そこにイメージがついてくるので、より明確になって、今よりも強い気持ちで目標を発言できると思います」
穏やかに、笑顔も交えて話していたが、その言葉の本気度を、ファイナルラウンドでの石川の姿が証明していた。準々決勝で、予選ラウンドで敗れていたカナダを3-0でくだし、準決勝ではスロベニアに3-0で勝利。まさに有言実行で、決勝の舞台にたどり着いた。
決勝戦は東京五輪金メダルチーム・フランスに1-3で敗れて銀メダルだったが、“決勝”という今の日本代表にとって未知だった景色を目に焼き付けた。
テレビインタビューで石川は「相手のフェイントを点にさせてしまったり、そういう1点の差でメダルの色が一個変わってしまう。1点の重みを、決勝に来て改めて感じた」。
そう課題を挙げつつ、「今回銀メダルで終わったので、次こそ金メダルを。パリ五輪ではそこを目指せるチームだと思っているので、金メダルを目指して戦いたい」とハッキリと宣言した。
決勝で得た明確なイメージと課題、そして悔しさを持って、パリへ。